親子だとどうしても感情的になる。それは仕方のないこと。
だって親はわが子には過剰な期待があるし、子は愛されているが故の甘えがあるし・・・。
で、外注することにしました。何の話?もちろん中学受験のためのお勉強のお話しです。
さっそくネットでいくつかHPを見比べる。探したのは中学受験専門の家庭教師センターです。
地味そう、真面目そう、堅実そう、って結婚相手を選ぶわけではないが、いくつかに絞りました。
中でも、手堅そうなイメージのところにさっそく電話をかける。塾名、現在の偏差値、希望科目、志望校を伝え、一番苦手な国語での指導を希望。予算の関係上、講師のランクの希望も一番下です。二度ほどのやり取りの後、「当センターのベテランを派遣します。ただし、彼は一番ランクの高い講師ゆえ、お客様のご希望の金額に見合うランクの講師ではありません。やはり、お客様のケースですと、志望校が高い(S光学院)ので、それに見合った指導ができる人間ということで、一番高いランクがお勧めです。とりあえず、わがセンターの最高ランクの指導をご体験ください、うんぬん」。一番高いランクの講師がモデル授業をする・・・しかし彼は人気なのでたとえ体験で気に入っても、直接指導するのは同ランクの別講師だということでした。初めから指導可能な講師を体験させてくれ~と思いましたが、当時知識の薄いワタクシは、家庭教師ってこんなシステムなのね、と納得したのです。さてさて当日、ベテランというにはびっくりするくらい若いお兄さんが現れました。聞けば、去年までW大学の大学院生だったそうです。態度はもう会社を背負って立つ!というくらいテキパキして、世慣れています。さっそくリビングで指導が始まりました。
ワタクシは、夕飯の支度をしながら隣のダイニングをうろうろ。
当然、指導内容は筒抜け。相手もぜひ聞いていてください、というスタンス。
出口の論理エンジンがいかに優れているか、いかにこの論理の構築が大切か、を強調してから、彼が用意してきたプリント問題へ。(以下、口調等は記憶が薄れているので、ワタクシが受けた印象のままにアレンジしております。)
「・・・ここは反対のこと言ってるから逆接だよね。逆接ってさあ、たとえば、友達と『昨日映画見に行ったけど、面白かったよ!』みたいに使うでしょ。『けど』、とか、『しかし』、とかさ・・・こういうの、逆接の接続詞っていうわけ。」
読解に入りました。
「ホラ、傍線部の理由を聞かれているわけじゃん。だから、理由を探せばいいのね。したら、ここにあるじゃん。 わかった? OK? じゃあ、次行ってみよう!」
一時間の指導が終わり、親との面談タイム。
「いやあ、基本はできているんですが、やっぱり読解部分が甘いですかね~。」
ここで言い訳させていただくと・・・私はいつもわが子に関しては一母親であり、子どもの通う塾や学校の先生を前に、国語のプロ講師の肩書を意識したこともありません。母親の時は、国語を専門に大学で10年学んだプライドもへったくれもありません。
サピックスの先生にも、学校の先生にも、個別面談時には「国語、どうやったら上がるんでしょうか?漢字、どうやったら覚えようという気になるのでしょうか?」と真剣に訴え、謙虚にお話を聞く模範的保護者であったと自負しております。
しかし、このときのワタクシは、そのプロ家庭教師のお兄さん相手に、今思えば、実にサイアクな行動をとってしまったのです・・・。
「実は、ワタクシ、Nの国語講師なんです。」
「えっ・・・」
「で、今一時間指導して頂いて、隣で聞いてましたが・・・」
「は、はい。」
「先ほど接続詞の例として挙げた文章、適切ではないと思うのですが、いかがでしょう?たしか『昨日映画見に行ったけど、面白かった』というような会話文でしたよね。会話の際の文法は、書き言葉の文法とは異なる場合があります。早い話、逆接の接続語が順接のように使われる。先ほどの例も、どの点が逆接なのかわかりづらく、子どもが混乱するもとになります。例として出すときは、日常会話と書いた文章とは区別して頂けたらなと思いました。
それと、あなたの例文で用いられた「けど」は品詞でいえば助詞になります。接続語、というなら正解ですが、接続詞、というのは明らかに誤りです。」
「読解の際、傍線部の理由を探すとき、どんな手がかりから理由を探すのかを指導しないと。まず解答ありき、のように、「ほら、これが理由でしょ」では解法を学べない、と思うのですが、いかがでしょう?」
誓って言いますが、いじめるとか、嫌味をいうとか、ひけらかすとか、そういった邪な意図はまったくありませんでした。
ただ、考えなしに「ありえん!態度だけ大物でも、勉強不足もはなはだしい!プロとしていかがなものか?!」という義憤に任せての行動だったように思います。
ワタクシ、頭に来れば来るほど、態度は落ち着きます。
ゆえに穏やかに微笑みながら言ったのですが、
お兄さん、思ってもみなかった反撃に出ました。
「ご自分がプロなら、先に言ってほしかったですね。
ご自身で教えたらいいんじゃないでしょうか?」
「親子だとむずかしいんですよね。」とためいきをつくワタクシをさえぎるように
ま、じゃ、僕はこれで。
もうそちらからのお申し込みはないとは思いますが、まあ、なんかあったら連絡してください。
センターには僕の方から報告しときます。
あのーワタクシ、今後の話は一切していないんですけど・・・。
態度が急変したことにあっけにとられているワタクシをしり目に、硬化した態度で慇懃無礼にそそくさと帰っていくお兄さん。
プライドの山を崩された怒りは大きかったようです。
ワタクシとしては、彼自身の「指導法」も聞きたかった。
言われっぱなしでふてくされる前に、プロなら「確かにそうですね。でも、子どもに細かいことをいちいち言うより、勢いで理解させた方がいいときだってあるんです!」くらいの反撃はしてほしかった。今でも自己嫌悪に陥る苦い失敗談です。お兄さんの帰宅後、後味の悪さにぷりぷり怒っているワタクシの横で終始長男はノーコメントでした。彼は決して人の悪口は言わない。 母親に似ぬ感心なトコロ。本当は年上のお兄さんというだけでうれしかったんだろうな、とは感じていました。
指導中も一生懸命うんうん聞いていたし。言うべきではなかった。
その場は黙って穏便に流し、後日適当な理由をつけてお断りすべきだった。
彼のためというよりも、息子のために。かくしてなんとなく、出鼻をくじかれた春野家では、しばらく自力で頑張ろう、とふりだしに戻ったのです。 疲れとむなしさが残りました。
家庭教師体験を通して得た教訓
- 体験する講師と指導する講師は同じ方が望ましい。⇒講師の質にばらつきがあるから。体験でいいなと思っても、実際の指導には、トンデモ講師が来る可能性も。
- 学歴だけ見ずに、大切なわが子に接する人間、人間性もみよう!マイナスの感情を表に出すようではプロとしては失格。
- 子どもの目の前で講師の面目をつぶすようなやりかたは好ましくない。⇒講師も子供も傷つく。要望があれば、子どものいないときに!!!
春野 陽子のプロフィール
日能研国語講師として、昨年度までの約10年間、主に6年生の中学受験指導を担当。
その間、長男(SAPIX)、次男(日能研→SAPIX→市進)の中学受験を体験。
2012年度から中学受験個別指導塾ドクターの株式会社ドクターに非常勤講師として勤務。