「出来た!」と思わず叫びたくなったこと、ありませんか?
そんな時、昔の人は神社に行ったのです。
こんにちは。受験ドクター算数科のI.Sと申します。今日は、江戸時代の算数(算術)についてお話します。
想像してください。ここにものすごく難しい問題があります。解けそうな気がするのですが、どうしてもうまくいきません。10分が経ち、30分が経ち・・・。そろそろあきらめようかと思ったその時! 素晴らしい解法が閃きました! 無我夢中で計算し、答えが出た!
・・・どうでしょう。この気持ちよさは、算数の醍醐味といって良いでしょう。
さて、みなさんはこの嬉しさを誰に伝えるでしょうか。まず家族に話し、学校で友達に話し、もしかしたらSNSに書き込むかもしれません。
では、江戸時代の人々はどうしていたのでしょうか?
なんと、板に問題を記して神社に奉納したのです。解けたことを神に感謝していたのかもしれません。
これは「算額」と呼ばれます。算数(数学)の問題を宗教施設に奉納することは、日本独特の風習だそうです。
算額の歴史は古く、最も古いものは1683年と言われています。
渋谷の金王八幡や、京都の八坂神社は、この算額奉納が盛んに行われていた神社として知られています。
庶民が自分で問題を作ることも行われており、自信作を絵馬に書き記して神社に結んでいました。
どうやら江戸の人々は、算術を娯楽として捉えていたようです。
算額絵馬で知られる神社には、地域の算術自慢が足しげく通います。
自信の問題が出来た人は、絵馬にかいて境内に吊るします。
作問者は頻繁に神社に通い、自分の絵馬に、見知らぬ誰かが解いてくれることを心待ちにしています。
算術自慢の参拝者は境内に吊るされた絵馬の問題を見て、解けたと思ったら裏に解答を書きます。
ある日作問者が神社に行くと、自分の絵馬に解答が書きこまれています。それが合っているか間違っているか、答え合わせをします。
またその後、解答を書いた人は神社に行き、合っているかを確かめます。
算数の問題を使って、神社という場で見知らぬ人同士の交流が行われていたのです。
江戸時代版のSNSといったところでしょうか。
自信の難問が誰にも解かれない時の誇らしい気持ちや、解かれた時は悔しい反面で理解者が現れたことへの嬉しい気持ちなど、今も昔も変わらないのかもしれません。
少し脱線しますが、冲方丁さんの小説「天地明察」というものがあります。この中で算額絵馬が重要なキーワードとして使われています。主人公の安井算哲(またの名を渋川春海)が算額に取り組み、碁のライバルである本因坊道策と戦い、最終的に新しい暦を作る、というストーリーです。おすすめです。(渋川春海の業績は歴史の教科書にも載っています。ネタバレではないので安心してください!)
インターネットで検索すると、昔の算額問題を沢山見ることができます。平面図形の問題が多く、解けそうで解けない、という絶妙な難易度設定の良問が揃っています。
頑張れば中学受験の範囲で解ける問題も沢山あります。興味のある方は、是非挑戦してみてください。
問題を通じて大昔の人と交流できる。タイムマシンのようで、なんだかロマンチックですね。