こんにちは。受験ドクター算数科・理科科の桑田陽一です。
夏休みも終了しました。
学校も始まり、家庭学習のサイクルを改めて組み立てている最中のご家庭も多いことでしょう。
6年生のお子さんたちは、いよいよ具体的な志望校対策に入っていく時期ですね。
5年生のお子さんも、後期には難度の高い重要単元が続きます。
そんなこの時期、本日は「トレードオフ」についてお話ししたいと思います。
「トレードオフ」とは、聞き慣れない言葉かもしれません。
「何かを得ようとするときに、他の何かを犠牲にしなければならない」ような関係のことをいいます。
簡単な例を挙げてみましょう。
車を運転している時に、スピードを上げれば上げるほど目的地に早く着くことが出来ますが、その分事故を起こす確率も高まってしまいます。
「スピード」と「安全性」はトレードオフの関係にあるわけです。
「安さ」と「商品の質」だったり、金融商品の「リスク」と「リターン」だったり、世の中には意識してみるとトレードオフの関係がたくさん転がっています。
さて、中学受験の勉強の中にも、トレードオフの関係を見出すことができますね。
「スピード」と「ケアレスミスの少なさ」だとか。
「こなす問題の量」と「理解の深さ」だとか。
「勉強時間」と「精神衛生」だとか。
例えば、苦手を克服するために何か算数の課題を新しく始めることにしたとしましょう。
時間は無限にあるわけではありません。ということは、新しい課題をこなすための時間は、現在、他のことをしている別の時間から捻出しなくてはいけません。
今までやっていた算数の別の課題をやらないことにする。
国語の勉強時間を減らす。
早起きする(これはすなわち睡眠時間を減らすということですね!)。
うちの子は、だらだらしている時間が多いから、テレビやゲームの時間を削ればいいんだ!という親御様、確かにその通りですが、本人にとっては「勉強時間増加による実力アップ」と「楽しい時間の確保」だって、両立しない立派なトレードオフです(笑)。
「丁寧さ」と「スピード」もトレードオフの関係にありますね。
テストで最後までたどり着かないというお子さんに、もっと速く解くようにしなさいと指示を出すのなら、その分ケアレスミスが増える可能性も考えておかねばなりません。
スピードを上げてみた結果、ケアレスミスが極端に増えるのならば、「やはり最後の問題は犠牲にしても、前半の問題を確実に解く」という方針が的確な場合もあるでしょう。
ともかく、トレードオフを意識しながら、より良いバランスを模索していくべきです。
ノートの字が雑なお子さんに「字を丁寧に書きなさい」という指示を出すとしたら、当面はスピードが遅くなることには目をつぶるべきです。
スピードはそのままで、今までよりも丁寧に書きなさい!はちょっと無理。
出来たとしたならば、実は「時間あたりの疲労度」が上がっていて、集中できる時間が短くなっているかもしれませんよ。
ということは、新しい課題を始めようとして、「今までやっていた課題量は維持するが、これまでよりも短い時間でこなすようにする」と決めたなら、当面はある程度の質の低下は許容してやらないといけません。
もちろん、お子さんたちは日々成長しますから、時間が経てば、同じ時間で多くの課題をこなすことが出来るようになったり、ミスの少ないままに問題を解くスピードが上がったりしていきます。
ただ、新しく何かを始めたり、スピードを上げたり、勉強の質を高めたりと、現状を何らかの形で変えようとするとき、当面は「代わりに何を犠牲にするのか」もセットで考える必要があります。
中学受験生、どんなお子さんにも改善すべき課題があるでしょう。
つい、「改善点や新たに始めるべきこと」ばかりを指示しがちですが、「その代わりに一旦はあきらめても良いこと」も一緒に伝えてあげたいものです。
講師として、自戒を込めつつ。