こんにちは。
受験Dr.の松本 佳彦です。
中学受験の漢字書き取り問題で、受験生を悩ませるものの1つが「同訓異字」。
それぞれの漢字を書くことはできるけれども、どういった場面で該当の漢字を使えば良いか分からない……誰しもこういう経験はあるかと思います。
パソコンや携帯電話、スマートフォンやタブレットのような電子機器の普及により、読み仮名を入力すれば漢字を出すことはできるようになりましたが、同訓異字の使い分けについては、正確に把握していないと対応できません。
そこで今回は、中学受験でよく出題される同訓異字について、正しく区別して使い分ける方法についてご紹介いたします。
❶はじめに
漢字学習の際、漢和辞典や漢字ドリルを見ると、「漢字の意味」が漢字毎に書いてあります。
文字の意味を覚えておけば、正しい漢字をイメージし易くなりますが、それを1026字の教育漢字全てで行うことは困難です。
代わりに、その漢字を含んだ熟語を考えることで、同訓異字の使い分けを覚える、という方法をご紹介します。
以下、特に区別のし難い3組の同訓異字を例に挙げて説明します。
❷オサめる
「収める」「納める」「治める」「修める」の4つがあります。
出題例:
国をオサめるのに… (2020年 浦和明の星女子中学校)
大学で学問をオサめる。 (2020年 栄光学園中学校)
国民の一人として税金をオサメル。(送り仮名も含めて答える)(2020年 早稲田実業学校中等部)
漢字を含んだ熟語と漢字の意味:
収める→収益=利益を収める (手に入れる、一か所にまとめる)
他、収入・収拾 など
納める→納税=税金を納める (差し出す、支払う)
他、納品・後納 など
治める→治世=世の中を治める (支配する、争いをしずめる)
他、治水・統治 など
修める→修学=学問を修める (習得する、身につける)
他、修道・研修 など
❸ツトめる
「勤める」「努める」「務める」の3つがあります。
出題例:
問題の解決にツトめる (2021年 慶應義塾中等部)
春から地元の企業にツトめる。 (2021年 浅野中学校)
学級会の司会をツトメルのは、いつも委員長だ。(送り仮名も含めて答える)(2024年 早稲田実業学校中等部)
漢字を含んだ熟語と漢字の意味:
勤める→出勤=勤め先に出る (仕事をする)
他、勤労・勤続 など
努める→努力=力を尽くして努める (はげむ、力を出す)
務める→教務=教育についての務め (役目を果たす)
他、急務・業務 など
❹ウツす
「移す」「写す」「映す」の3つがあります。
漢字を含んだ熟語と漢字の意味:
移す→移植=移して植える (動かす、変える)
他、移動・移転 など
写す→写実=実際のものを描き写す (元の物を真似して作る・書く)
他、写真・写経 など
映す→映像=像を映す (別の所に表す、影響する)
他、映画・反映 など
❺同訓異字と部首
さて、漢字の成り立ちを学習する際、「形声文字」の所で「部首が意味を表す」という話が出てきますが、同訓異字を含んだ熟語を考えてみると、漢字と部首との関係も見えてきます。
例えば「映す」という字は「ひへん(日)」が部首ですが、「映像」や「映画」の仕組みを踏まえると、光を用いて絵や像を別の場所へ表示させているから、と考えられます。
「勤める」「努める」「務める」の3つについては、いずれも「力」を使うことなので、全て「ちから(力)」が部首になっています。「勤労」「努力」「業務」という言葉からも、力を使う様子がイメージできます。
「治める」の部首が何故「水」を意味する「さんずい(氵)」なのか? ということについては、元々は水の流れを整備して、洪水や氾濫を防ぐ、というのが字義だからであり、これは「治水」という熟語に残っています。
この他にも、「ハジめ」と読む同訓異字では、何故「最初」の「初め」は「ころもへん(衤)」に「刀」と書くのか、「開始」の「始め」は……と考えを広げることで、漢字の成り立ちや字義に関心を持って探究し、知識や素養を磨くことができます。
入試問題を解く上でも、「どの字を使えば良いかは理解できたが、いざ書こうとすると形がうろ覚えになっている」という状況への対策になりますので、熟語の形で同訓異字を考える際には、それぞれの部首にも注目してみましょう。
いかがでしたでしょうか。
今回紹介した「オサめる」「ツトめる」「ウツす」、及び「ハジめ」以外にも同訓異字は多くありますが、それぞれを含んだ熟語を考えることで、漢字の意味やイメージが理解し易くなります。
ですので、同訓異字を学習する際は、熟語と紐づけて把握する、という習慣を身に付けておきましょう。
次回は「同音異義語」とその覚え方についてご紹介します。
それでは、今回はこの辺りで失礼いたします。