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投稿日:2024年07月18日

テーマ: 国語

中学受験国語と外来語~スムーズな文章理解を進める為に~

こんにちは。
受験Dr.の松本 佳彦です。

 

「我が社のコア・コンピタンスは…」「新宿駅にデジタルサイネージを導入し…」等、数年前までは馴染みの薄かった外来語を目にする機会が多くなってきました。

外来語については、

例① 「ート」で終わる外来語はたくさんあります。1~5の意味になるそのような言葉を、(  )内の文字数になるように、解答欄に合わせて答えなさい。 (2024年度 灘中学校)

1 警報(四字) 2 支援(四字) 3 スポーツ選手(五字) 4 遠くはなれたところから行うこと(四字)
5 旅券(五字)

例② 「クリティカル」の本文中での意味として、最も適当なものを選びなさい。(2020年度 渋谷教育学園幕張中学校)

  批判的 決定的 危機的 本質的 超常的

など、中学入試の問題でも出題されることがあります。灘中学校の「警報(アラート)」や「遠く離れたところから行うこと(リモート)」については、「Jアラート」「リモートワーク」のように、昨今の情勢に関連した用語からの出題となっています。

今回は、こうした外来語について触れたいと思います。

 

❶国語の文章と外来語

かつて大学入試の英語教育では、「英文和訳の問題では、外来語は全て日本語に訳す」とされることがありました。
「soccer」は「蹴球」、「café」は「小さな喫茶店」といった具合です。
無論これでは、「I had a piece of cake at the restaurant.」という文章の訳が「私はその料理店で一切れの西洋の焼き菓子を食べた。」という不自然なものになるので、現在では「cake」→「ケーキ」、「restaurant」→「レストラン」というカタカナ表記での訳出がなされます。海外の言葉がそのまま「日本語」として取り入れられた形です。

中学入試で出題される国語の問題でも、本文中に「コンプレックス」や「コスト」のような外来語が多く登場します。

記述解答を作成する際に、これらの語句を含む箇所をまとめる場合、無理に「劣等感」や「費用」のように日本語にせず、本文中の表記をそのまま使いましょう。

これは「本文中の言葉を用いて」という指定がされていない場合も同様です。

なお注意したいのは、「そのまま『日本語』として取り入れられている」ということは、「語句に註釈が付いていない可能性がある」ということです。

外来語の意味が設問として問われる学校は勿論のこと、それ以外の学校でも、本文に出てくる外来語の意味が分からなければ、文章の内容理解に余分な時間が掛かってしまいますので、「よく出る外来語」としてまとめられているような語句については一通り意味を押さえておきましょう。

 

❷外来語と「理解し易い文章

では、自由作文や小論文など、自分の言葉を用いて答案を作成する場合、外来語はどのように用いればよいでしょうか。

外来語の使用量や用い方に厳密な基準がある訳ではありませんが、自分自身の意見を正しく伝える以上、やはり「理解し易い文章を書く」ことに留意する必要があります。

よく例として挙げられるのが、「パソコンの使い方の説明」です。

「パソコンやインターネットのことを全く知らない人に対して、外国語を使わずにパソコンやインターネットの使い方を説明してください」と言われた場合、「パソコン(=パーソナルコンピュータ)」や「マウス」、「キーボード」といった機器の固有名詞を用いることができなくなり、説明は困難を極めます。

一方、「外国語を無制限に用いても良い」となった場合、以下のような説明になる可能性があります。

「電源ボタンを押してパソコンを立ち上げると、デスクトップが表示されます。Wi-fi環境がある場合、LANケーブルを繋ぐことなくインターネットアクセスできます。デスクトップにあるブラウザアイコンマウスカーソルを合わせ、ダブルクリックしてください。」

AI技術を用いたディープフェイク等、近年ますますメディアリテラシーの重要性が高まっています。」
内容に間違いはありませんが、「パソコンやインターネットのことを全く知らない人」にとって、太字の外来語は説明なしでは非常に理解し辛いでしょう。また、斜体の言葉は日本語ですが、日常会話での使い方と異なっており、これも説明なしでは意味が伝わりにくいものになっています。

そこで、「固有名詞はそのまま使い、それ以外の専門用語は分かり易い日本語に変換していく」方法を採ってみます。

この場合、「デスクトップ」や「カーソル」等については都度説明を入れつつ、「立ち上げる」→「起動させる」のような言い換えを用いることで、伝えたい内容の理解が進みそうです。

では、「アクセス」や「リテラシー」といった語句についてはどうでしょう。

上手く日本語に言い換えたいところですが、英和辞書でこれらの語句について調べてみると、以下のように掲載されています。
アクセス(access)…接近方法
リテラシー(literacy)…読み書き能力 知識・技能

これらの意味は、パソコンやインターネットができる前からあったものですが、それを「インターネットへのアクセス」や「メディアリテラシー」の説明として使おうとすると、どうしても伝えきれないニュアンスが出てきます。(「ニュアンス」という言葉自体、辞書的に「微妙な差異」と変換すると若干異なった印象を受けます)

また、「AI」という語についても、そのまま変換すると「人工知能」となり、上の文章だと意味は通りますが、「生成AI」という表現の場合、これを「生成人工知能」と訳すとどこか違和感があります。

AIの活用が様々な分野へ広がるにつれ、「AI」という言葉自体が、本来の「人工知能」という意味よりも広い範囲をカバーするようになった、と考えられます。

日本の「侘び寂び」という概念が他の言語で言い表しにくいように、「アクセス」や「リテラシー」、「AI」という語句についても、ある程度の意味を伝えた上で、感覚を身に付けてもらう、というのが一番良さそうです。

作文や小論文の場合、例えば、「小学校で何かに打ち込んだ経験を述べてください」というテーマに対して「バスケットボールでチームワークの大切さを学んだ経験」を述べようと思った際、

「相手チームのポイントガードはとても強力で、主将としてチームを上手く統率していた。センターの私は一人で対抗心を燃やし、彼女のレイアップシュートブロックショットしようとして、危うくゴールテンディングになるところだった。」

と書くと、バスケットボールについて詳しくない人が読んだとき、話の流れを上手く把握できない可能性があります。

「ポイントガード」や「センター」については、「ポイントガードというポジションの選手は」等の表現をすれば良さそうですが、後半の専門用語を同じように説明すると、文章が冗長になってしまいます。

一人で焦って失敗しそうになった」ことが話の主軸ですので、2文目の後半部分については、「彼女のシュート防ごうとして、危うく反則になるところだった。」のように、専門用語を使わずに状況を伝えたほうが良いでしょう。

一方、「主将としてチームを上手く統率していた」という箇所については、「リーダーシップを発揮していた」もしくは「キャプテンシーを発揮していた」と書くことができれば、「チームをまとめる力やバスケットボールの技術力を兼ね備えている」というイメージが浮かび、「統率」という言葉よりも更に的確に、相手選手の様子を表すことができます。

読む人が理解し易くなるよう、過度の専門用語の使用を控えるよう心掛けるとともに、適宜外来語を取り入れて、表現の幅を広げてみましょう。

 

いかがでしたでしょうか。

「言葉は生きている」とよく言われるように、日本語は様々な言語の語彙を取り入れつつ、多様に変化してきました。

時勢が変わる速度が上がるにつれ、ますます新しい語彙が増えていくことが考えられますが、常にスムーズコミュニケーションをすることを意識して、外来語と上手く付き合っていきましょう。

 

それでは、今回はこの辺りで失礼いたします。

国語ドクター