メニュー

投稿日:2024年08月29日

テーマ: 国語

中学入試に出る暦(こよみ)の学び➂ with【秋の俳句】

「日日是学日!」(⇒ 日々、これ学び!)」

受験Dr.の松西です。まだまだ暑さが続きますね。とっくに立秋は過ぎたというのに。
あれ…、立秋っていつだったっけ? 立春・立夏ときて、またこの話題。
そう、今回は中学受験の教養:暦(こよみ)の学びです。

まずは立秋の確認。「今年も土用の丑の日に、ウナギが話題になっていましたね?」
これでオーケーです。記憶が残っているうちに定着しちゃいましょう。

節分は年に4回、そして土用も年に4回あります。節分は「立春前の節分」が有名、
そして土用は「立秋前の土用」が有名です。どちらも「季節の変わり目」期間を指し、
節分が1日のみで、土用は18日間あります。よって、土用の丑のウナギを食べている…
「立秋が近い」ということですね。「舌と嗅覚」が大きな武器になる、美味しい教養です。
今年(2024年)の土用の丑は7月24日と8月5日、立秋は8月7日でしたよ。

 

さぁ、ちょっと紛らわしい暦のズレも、復習がてらに再確認。過去のブログもご覧のみなさまには、この表もずいぶん見なれてきたのではないでしょうか?

 

素直にスライド型の表

「仲秋の名月」。このフレーズはよく知られています。表の一番上の数字と二段目の表現を
目で追ってみてください。旧暦の仲秋の名月が「八月」ですね。それが新暦では「9月」に
すとんとスライドしています。なぜなら「せっかくのお月様が実際にきれいに見えないと、
意味がないから」です。「名称に数字が入っていない」ことにもご注目ください。
そして中学受験・社会の地理分野「東北三大祭り」のひとつ「仙台の七夕祭り」。
旧暦「七月」の行事ですが、「8月」に行われます。今年は8月6~8日の実施だそうです。

ここで共通しているのが「実際の季節感に合わせて、伝統行事が行われる」点ですね。

頑固にゴリ押し型の表

お次はみなさまの「実体験にもとづく違和感」が学びのカギとなります。具体的には七夕。
「梅雨の真っただ中に、お空を眺めるイベントをするのは、不合理なんじゃないの?」
こう思ったことはありませんか? そしてニュースでは「せっかくの七夕ですが、今年も
織姫と彦星は会えなそうです」などと言われ…年に一度しか会えない二人にはいい迷惑。
それもこれも、「7」という数字にこだわったから発生した不思議な慣習のせい。

※ 仙台の七夕祭りでは、織姫たちは高確率で出会えますのでご安心ください。

このパターンを「頑固にゴリ押し型」と名付けます。この季節感のズレと「歳時記の決まり」が俳句の季語をちょっとややこしくします。

 

お次は「入試に出た俳句一覧」です。過去10年の出題を中心に「設問として出た」ものを
選んでいます(=文中引用だけだと出題数はもっと増えます)。あくまで私が個人的に記録しておいたリストの一部であり、すべての出題を網羅しているわけではないことをご了承願います。

秋の季語を持つ俳句の表

すべて、秋の季語を持つ俳句となります。
さて、何から話そうか…紙面の都合で全部は扱えないのですが。まずは「七夕」関係ですね。
これは「歳時記」で秋の季語と決まっています。それに関連する「天の川」も同じ。
➂・⑩・⑬の句が当てはまります。植物や動物などの風物詩は、日々の暮らしとからめて
覚えておきたいですね。⑤「月見」⑨「月」⑪「名月」⑭「すすき」は仲秋の名月関連です。
ススキを知らないというお子様は、9月のお月見がいい機会ですので確認しましょう。

⑫「柿」はもう説明も不要でしょうから、ほかの、小学生には難しい季語を攻めていきます。
まずは⑥朝顔。秋の季語となります。

※前回「夏の俳句」の一覧で、朝顔をよんだ句が誤って入っておりました。お詫びして訂正いたします。

「つるべ」とは、井戸に取り付けられた水をくむ桶(おけ)のことで、「釣瓶」と書きます。
朝のあわただしい時分に水を汲みに来ると、つるべに朝顔のつるが巻き付いている。つるを切ってまで井戸を使うのもなんだかかわいそうなので、事情を話して近所の人に水を分けてもらい、
間に合わせた…。きっとそのご近所さんも理由を聞いて、笑いながらこころよく水を分けて
くれたのでしょう。登場するみんなの様子が、ほのぼのとやさしく浮かぶ句ですね。

次に①「菊」。「菊人形」が盛んな地域なら問題ないのですが…

菖蒲と菊の説明

五節句の中でも印象の薄い「重陽の節句」。清少納言の時代にはすでにあった行事です。
枕草子の中で、菊を柱に結わえ付ける場面が出てきます。5月5日の「端午の節句」で
用いられる菖蒲も加えました。この二つからできたことわざが「六日の菖蒲、十日の菊」です。つまり5月5日に間に合わない菖蒲や9月9日に間に合わない菊の花は「時節を外した物だ」……そこから転じて「時節を逃がして役に立たないもの」を指します。
とはいってもこれは旧暦の話。私は個人的に藤の花や紫陽花を見に行ったりしますが、今年の
菖蒲の見頃は5月下旬でしたし、菊人形は10月を過ぎないと開催されません。

現代では「5月5日の菖蒲、9月9日の菊自体が早すぎる」ので、このことわざ自体に
「時期が前倒しにずれている」感が…ありますが、ともあれ「菊は秋」と覚えましょう。

⑦「野分」はこの時期に吹く大風、台風とおなじようなものです。この句は難しいですが、内容を取れなくても正解できる出題形式でした。⑮について、「くろがね(鉄製)の『秋の』風鈴」で
あることがポイントで、たんなる風鈴は夏の季語。でも秋の風鈴は「まだ片づけていない」もの
であり、「過ぎ去った夏の名残(なごり)」でもあります。和歌の時代からこの「夏が終わってしまった」「いつの間にか季節は秋なのだな」という主題をうたったものは多く、⑮の句にも
「おや、風鈴の音が…そうか、出したままだったか…とっくに夏は終わったのにな」というもの悲しさを感じます。

つい、説明モードになって語ってしまいましたが、終わる気配がないのであと一つだけ話して
説明を終了します。⑧~⑪の「小林一茶」について。

⑧ 折れ曲がった釘のように細い私の手足にも、秋を知らせる風が通ってゆくよ。
⑨ 久しぶりに戻ってきて楽しみにしていた故郷の月が、あいにくの曇りで見えないのだなぁ。
⑩ おぉ、きれいだ。障子の破れ穴からのぞき見る天の川もいいものだ。
⑪ 「あのきれいなお月さん、取ってぇ」と駄々をこねてなく子供がかわいいなぁ。

どれも「日常の何気ないワンシーンから詩情を見出している」「ユーモアがただよっている」と
いう共通点がみとめられます。他にも「子供や動物など、小さなものへの愛情」も作品に多い。
これが「小林一茶の作風」ですね。
同じものを題材にしていても➂「佐渡の荒波と夜空に広がる天の川の情景」をうたった句と
⑩おじさんが部屋から障子穴ごしに天の川を見てテンション上げている句とではずいぶん印象がちがいます。

⑤では仲秋の名月がうたわれていますが、⑨では「故郷の月を見られずしょぼくれる自分」、
⑪では「月を見て駄々をこねる子供」と、本来の主役たる「月」以外に焦点をあわせています。こういう庶民的な目線と気づきのセンス、ユーモアに小林一茶の魅力の秘密がありそうです。

というところで筆を置きます。立秋(くどいですが8月上旬!)を過ぎても暑い日が続きますが、
「暑さ寒さも彼岸まで」です。その彼岸がまた暦の学びにつながっていく…のだけれども
それはまたの機会に。夏の思い出とともに季語をしっかり印象付けておきましょう。

「日日是学日!」(⇒ 日々、これ学び!)」

国語ドクター