これまで指導してきた生徒たちのことは、当然のことながら全員覚えています。
ただ、順風満帆で受験を終えた生徒よりも、紆余曲折を経て受験を終えた生徒の方が印象に残るようです。
最後の最後まで私の頭を悩ませ続けた、恐らく一生強烈に脳裏に焼きついたままであろう生徒たちがいます。
これからお話しするのは、そのうちの一人。
6年生の夏休みに入っても、典型問題の解法が思うように定着しない女子生徒がいました。
確認テストでは20~30点を連発。0点だった日は、さすがに私も授業後に一人で頭を抱えました。
授業を終えるごとに、家庭学習内容及び次回の授業内容の計画を修正。夏期講習中はその繰り返しです。
指導経験上から思うに、こちらの指示通りに学習を進めてくれれば、6年夏の段階で典型問題の解法が定着していない生徒であっても、秋の段階ではあらかた定着してきます。
ところが、彼女の場合は、一つのことを吸収するのに他の生徒の何倍もの時間を要し、秋の段階で定着するという確信がどうしても持てなかったのです。
どうやったら定着させることができるか、どうやったら本番まで間に合うか、もっと彼女に合った方法論があるのではないか、夏休み中はもちろんのこと、9月以降も考えに考え続ける毎日でした。
私はどうも自分で自分を追い込む癖があり(・・・見かけによらないですか?)、11月頃からは毎年恒例の胃炎に悩まされるように。担当する生徒全員が頭の中を駆け巡っている状態なので、頭痛なんて起こしているヒマはなく、結果として胃がやられるのだと勝手に解釈していますが。
彼女はとても素直な性格で、私の指示を忠実に守ってくれていました。
「絶対に第一志望校に合格するので、いっぱい教えて下さい。がんばります。」との手紙をもらい、何とかしてあげたいとこちらも必死、彼女も必死。
救いは、①彼女の国語が常に高得点で安定していたこと、②第一志望校の算数の出題傾向が明確で、対策の立て易さは随一であること。
20年分の過去問をあらためて分析し、直前期は徹底して出題頻度の高い分野の問題演習を行うとともに、余白が極端に狭い問題用紙に慣れるために同じサイズの用紙・同じフォントの文字での問題演習を実施。
最後の授業を終えて、やれる限りのことはやった、あとは彼女の力を信じるのみ、という思いでした。
本番当日、極度の緊張に見舞われた彼女。受験ドクターから生徒に贈ったお守りに書いてある、私の彼女に向けたメッセージを算数の試験前に読んで、涙が止まらなくなったそうです。
あまりの緊張の様子に心配したお母様から電話があり、午後入試に向かう前に声をかけてほしいとのこと。
電話でしゃべった彼女は、本命の入試を終えてほっと一息ついて緊張の糸もほぐれた様子。私から出来具合は一切たずねませんでしたが、「先生が作った予想問題と同じ問題がいくつかあった。でも、解けない問題もあった。」
さらに彼女がしゃべるままに話を聞くと、問題の内容をけっこう細部まで覚えており、緊張はしていたものの頭が真っ白という状態ではなかったことが確認でき、これはいけるかもしれないと。
そして翌日の朝、ネットでの発表を見たお母様から、電話で泣きながら「合格しました。ありがとうございました。」との報告が。
電話を切ったあと、彼女の頑張りとお母様のご尽力に感謝しつつ、私自身も張りつめていたものがプツンと切れ、ひとしきり涙を流しました。いつもは全員の進学先が決まるまで張りつめた状態を保つはずが、このときばかりは抑えることができませんでした。
四谷大塚の合不合判定テストでは、第一志望校の合格可能性は4回とも30%以下。
それでも、志望校対策を徹底すれば合格できることを実証してくれました。
模試の成績が全てではないことは、講師側は理解していても、生徒たちはなかなか素直に受け止められないはずです。気休めに言っているぐらいにしか思えないのでしょう。
彼女のような生徒がいてくれると、後に続く生徒たちの励みになります。
さすが、最後の最後まで悩ませてくれただけのことはありますね。
今年度も担当する生徒の中に“記憶に残る受験生”予備軍はいるのでしょうか?
どうもいるような気がしてならないのですが。 うん、確実にいますね。
また胃炎に悩まされたくないなぁ。
でも、毎年恒例で慣れているからいいか。
いや、やっぱり痛いのはイヤだなぁ。
でも、薬を飲めばすぐおさまるからいいか。
いや、やっぱりコーヒーが飲めないのはつらいなぁ。
でも、食事制限で忍耐力が養えるからいいか。
いや、やっぱり美味しいものが食べられないのはつまらないなぁ。
でも、痩せるからいいか。
いや、やっぱり定期的に通院するのは面倒だなぁ。
でも、「先生、毎年大変ですね」って看護師さんにねぎらってもらえるからいいか。
いや、やっぱり・・・
もうこのへんでやめておきます。