今年でドクターに移って6年目になります。
担当した生徒数は100名近くになり、最後の最後まで頭を悩ませてくれた“記憶に残る受験生”もだいぶ増えました。ホントはあまり増えてほしくないのですが。
これもどうやらシリーズ化しそうです。
今回は「最後の最後まで頭を悩ませてくれた」というよりも、「最後にとんでもない結末が待っていた」という“記憶に残る受験生”です。
5年生の冬から指導を開始した生徒。
通っていた塾の校舎では最上位クラスに在籍しており、男子最難関校志望者に向けたハイレベルな算数の授業に四苦八苦していました。
私が「国語の神」と呼んでいたように、国語については抜群の成績を誇る彼女。模試の100字記述・150字記述で満点答案を書いてくるような生徒なので、国語の成績で最上位クラスをキープしているという状況です。
彼女の当初からの志望校は御三家ではなく、本命は1日の女子校、押さえは2日の女子校、大本命は3日の共学校。
3つの学校の出題傾向を考えても、最上位クラスで展開されている授業内容はハイレベルすぎて無駄が多く、しかも彼女にとって適切なレベルでの問題演習量が不足しているという、好ましくない状況が続きました。
生真面目な生徒であるがゆえに、塾から宿題として出された男子最難関校の入試問題に黙々と取り組む日々。
そのやり方では、かけている労力に見合った成績の伸びが得られないのは明らかです。
「志望校に合格したいのであれば、ひとつ下のクラスで授業を受けるべき。」
その旨を6年のGWが過ぎた頃にお伝えしたところ、お母様は同意見でしたが、本人がなかなか納得できず。
誰も好んで自らクラス落ちをする生徒はいないでしょうが、志望校合格のためには必要な決断です。
夏休みを前にして、彼女は夏期講習までは最上位クラスで受講し、9月以降はひとつ下のクラスで受講することを選択。
その夏期講習中に、基礎固めに時間を充分に割けなかったそれまでのツケが露呈。講習中のテストは普段のテストと比べて基本的な問題が多いので解きやすいにもかかわらず、ほとんど解けずにテスト中は手の震えが止まらず、帰りの電車内でずっと泣いていたとのこと。
そんなこともあって、最上位クラスにいても力がつかないことを彼女自身が理解し、ようやく「本当に必要なこと」に目を向けるようになりました。
9月以降、真っ先に取り組んだ課題が「計算問題での失点を防ぐこと」「受験生であれば誰もが知っている公式・知識を覚えること」(泣)。
国語の貯金があるのでさほど焦らずに進めることができたものの、算数の状況はあまり芳しいものではありません。
ただ、とにかく真面目な生徒だけに、納得した指示は忠実に守ってくれるので、必要な問題演習に割く時間が8月までと比べて格段に増えたことは幸いでした。
コツコツと積み上げていき、12月に入ってようやく「いけるかも」という感触をつかんだ反面、本命校の過去問で思うように点数がとれないという悩みを抱えるように。
この学校は年度による平均点のアップダウンが激しく、さらに問題を難易度順に並べることはせず、所々に地雷問題を配置するという、受験生泣かせの入試問題を作成します。
生真面目な彼女は、上から順番に解いていき、途中の地雷問題をとばすことができずにタイムオーバーになることが多く、40分の時間配分を無視した解き方をしていました。
12月・1月は時間配分の作戦を頭にたたきこみ、それを過去問演習で実践してもらうことで、算数の苦手意識は払拭できなかったものの、算数が他科目の足を引っ張ることはない状態にまでもっていくことができました。
理科にも不安要素を抱えていましたが、4教科トータルで考えれば「やっと本番まで間に合った」という思いでした。
2月1日当日は「地雷問題にはまらないように」と祈るのみ。
翌日、1日本命校と2日押さえ校、どちらも合格と判明し、ほっと胸をなでおろしました。
本命校の合格を聞いた彼女は号泣したそうです。
あとは3日大本命校の入試に全力でぶつかってほしい、そう願っていました。
ところが、一次試験を終えた後、お母様からメールが。
「急性虫垂炎で緊急手術をし、一週間入院のため、二次試験が受けられなくなった」という内容でした。
予想もしなかった事態にただ茫然。
どんな言葉をかけるべきか必死に考えましたが、彼女やそのご家族の気持ちを思うと言葉が出ません。
そんなとき、再びお母様からメールを頂きました。
ここに全部書くことはできませんが、かいつまんで記すとこんな感じです。
「希望校の◇◇中に合格を頂いた後で良かったと思っています。私は運命論者ではありませんが、縁を信じようと思います。
よくこれまで頑張ったねと言ってあげたいです。
先生、ありがとう。
病室を訪れて、娘の顔がホントに子供っぽく穏やかな表情になっているのに気付きました。
傷口がひらくよーと叫びながら笑いが止まらない様子の娘を見ていると、私自身穏やかな気持ちになり、かなりプレッシャーを強いていたんだなーとつくづく思いました。
今、喜んでいる娘には光があたっていますが、光がさすところには必ず影ができます。
娘は影のところを思いやる子に育てたいと思います。」
・・・あの状況で、なかなか書けない内容だと思うのですが。
今読み返してみても、お母様の懐の深さに敬服します。
で、今年度の6年生に向けて。
志望校を目指してこれから学習を進めていくと、色々な問題に直面します。
思うように成績が伸びないこともあるでしょう。
学習することがつらくなることもあるでしょう。
でも、心底憧れていた学校を外的要因で受験できなかった、この生徒の悔しさ・虚しさを考えれば、志望校を受験できる環境にあるみんなは幸せですよ。
これから長丁場ですが、頑張ろう。