どんな本を読むとよいですか?
このような質問を時々受ける(本日は常体にて失礼)。
そのような時、作品名を具体的にあげるよりは、作者名をお示しすることが多い。
たとえば、論説や随筆系であれば、
含蓄のある、一見平易であっても実は相当手ごわい、
加藤尚武
外山滋比古
永井 均
森本哲郎
鷲田清一
といった人たちの著書(のうち一般向けのもの)。
文学系であれば、
魚住直子
佐藤多佳子
富安陽子
梨木香歩
椰月美智子
湯本香樹実
の作品は、安心してすすめられる。
また、近代文学史上の名作も、時代背景や設定の違いに対する想像力を強化するためにチャレンジしてもらいたいところである。
入試に出そうかどうか、出典となりそうな本を教えてください、という人もいる。
どの学校で、誰の、何という本が出典として利用されそうかは、わかるはずもない。
ただし、全体的な潮流、流行のようなものはある。
学校によっては、在学生に推薦読書リストを配布しているところもあり、そこに挙げられた本が出典となったこともある。
とはいえ、「あてよう」とするのはあまり意味がない。
たとえ、出典が「あたった」としても、その本の、どの部分から、どのような意図で、どのような出題がなされるかは、
あまりにも多くの可能性がありすぎて、対策としては無意味である。
一言一句おろそかにせず精読してみる、あるいは、さまざまな出題可能性を想定しながら読む、ということはできるであろう。
けれども、それでは楽しい読書経験にはなりにくい。
まずは、一冊の本全体を読み通す、という持続力を養ってもらいたい。
そのうえで、余力があれば、徹底的に精読するのもよい。
あわよくば、「あてたい」という人には、今年出版された(される)単行本からも何冊か選んで読んでみておいてもらいたい。
たとえば、今年の桜蔭の出典の一つとなった魚住直子の『クマのあたりまえ』は、ポプラ社から2011年8月に出版されたものである。
そのほか、読む本に迷うようであれば、講談社児童文学新人賞、小学館児童出版文化賞、日本児童文学者協会賞、日本児童文学者協会新人賞、野間児童文芸賞、椋鳩十児童文学賞、などの受賞作であれば、出典としてとりあげられる可能性もあり、読書という面では、思い出に残る読書経験ができたり、生涯の愛読書となる可能性もある。児童文学賞の中には、残念なことに終了してしまったものもある。赤い鳥文学賞は、2010年第40回で終了し、新美南吉児童文学賞も。2010年の第28回で終了した。しかし、両賞とも、心を込めて選ばれたと感じられる受賞作が多い。
「読書」と「入試問題を解くための読み」は、さまざまな点で異なる営みだが、「読書それ自体の喜び」を知らないまま、年を重ねてしまうことは、人生において大きな損失であると思う。
ぜひ、読むことを楽しめるようになってもらいたい。
そして、読むことを楽しみながら、生き生きと問題を解いてもらいたい、と思いつつ、指導を続けていく所存である。