皆さんこんにちは。
受験ドクターの科学大好き講師、澤田重治です。
今回は、学習には欠かせない「記憶」というものを科学的に考えるシリーズの第3弾です。
このシリーズでは、単なる経験則だけではなく、学習には欠かせない「記憶」の仕組みを科学的に考え、効率よく覚える方法を紹介していきます。
どうぞご期待ください!
さて、第3回のテーマは、第1回から予告をしておりました「記憶の種類」についてです。
おさらい――「短期記憶」と「長期記憶」
人の記憶には、「短期記憶」と「長期記憶」とがあります。
すべての記憶は、一旦、短期記憶として記銘され、何もしなければ数十秒間で消えてしまいます。
たとえば、ピザの宅配を頼もうと思って電話番号を記憶し、ダイヤルを押して電話を掛けて、話し始めるころにはもう忘れている……これが短期記憶ですから、到底学習には使えません。
しかし、その消えるまでの数十秒間に何度か繰り返すことによって、短期記憶が長期記憶に変換されることになります。
これが、一般的な「学習」の本質なのですね。
さて、より効率よくお子様に学習してもらうために、この「長期記憶」をさらに掘り下げてみたいと思います。
そう、今回テーマとしている「記憶の種類」というのは、この「短期記憶」と「長期記憶」の違いのことではありません。
学習に利用すべき「長期記憶」というものは、さらに「エピソード記憶」と「意味記憶」とに分類されるのです。
「エピソード記憶」とは?
例えば、「何でも結構ですので、小学生時代のことを思い出してください」とお願いしたら、皆さんは何を思い出されるでしょうか?
修学旅行? 運動会? 学芸会?
いずれにしても、それはきっと特別な経験だろうと思います。
何の変哲もない、ごくごく平凡なある一日を、急に思い出すということはあまりないはずですから。
このように、経験に則した記憶のことを「エピソード記憶」といいます。
エピソード記憶は、それが珍しい出来事だからこそ鮮明に記憶に残るのであって、「夕食を食べる」というように何度も繰り返される経験だと、記憶の強度は弱くなってしまいます。
また、人間の脳は発達しているため、他の動物にはない特徴として、「イメージしたことも経験と同じように扱うことができる」と言われています。
これは、必ずしもすべてを実体験として経験しなくても、話を聞いたり本を読んだりしてイメージすることで、経験を増やすことが可能だということでもあります。
つまり、イメージしたことも「エピソード記憶」として記憶されるのです。
「意味記憶」とは?」
唐突ですが、皆さんは「掛け算九九」をどのように覚えられたでしょうか?
おそらく多くの方が、何度も反復することで覚えたのではありませんか?
あまり、掛け算九九を経験やイメージに関連させて覚えた方はいらっしゃらないと思います。
このように、反復することによって覚える丸暗記の記憶のことを、「意味記憶」といいます。
言葉や公式など、いわゆる左脳を使った記憶と言い換えることもできるでしょう。
当然のことながら、意味記憶は、反復回数が増えれば増えるほど強度が上がります。
しかも、比例的に上がるのではなく、指数関数的な上昇をするという特徴があります。
これはつまり、少ない反復回数のうちは強度が上がらないため、強い記憶にするためには、多くの反復が必要になるということです。
反復回数と記憶の強度(強さ)の関係
先述の通り、エピソード記憶は一度の経験でも覚えますし、同じような経験が繰り返されると、むしろ記憶の強度が下がります。
一方、意味記憶は、反復回数が増えれば増えるほど記憶の強度が上がります。
この関係をグラフで示すと、このようになります。
ここで、ポイントになるのは、意味記憶の強度の上がり方です。
もちろん、反復回数が上がるほど記憶の強度も上がるのですが、それが直線的な関係でないことにご注意ください。
つまり、反復回数が少ないうちは、あまり記憶が強くなっていないのです。
そして、多くのお子様が、この強度の上がらないうちに反復をやめてしまうために、努力した割に成果が出ないという結果になってしまっているのです。
とはいえ、中学受験に必要な知識事項すべてに対して、十分な回数の反復をすることは至難の業でしょう。
そうなると、受験勉強の鍵を握るのは「エピソード記憶」だということになります。
少ない回数で記憶することが可能な「エピソード記憶」は、短時間で成果を出したい受験生にとって強い味方になってくれます。
もちろん、意味記憶でなければ覚えられないようなものも中にはあるでしょうが、エピソード記憶を利用することで、意味記憶で暗記しなければならない知識の総量を減らすことができます。
そうすれば、それらに対して反復回数を増やすことができ、強い記憶を作ることができるようになるのです。
では、どうすれば「エピソード記憶」が使えるのか?
その答えは、「イメージ」にあります。
冒頭でもご紹介した通り、人間はイメージしたことも経験と同じように扱うことができるという特技を持っています。
つまり、言葉や式のまま覚えるのではなく、イメージにすることで、エピソード記憶になるのです。
「いちいちイメージを作るのに時間が掛かる」とお思いかもしれませんが、結果的にはその方が短時間で覚えられるので、ぜひ実践してみてください。
また、慣れてくると、短時間でイメージを描くことができるようになりますよ。
そのコツは、次回のブログでご紹介したいと思います。
どうぞご期待ください。
教育は科学です。
学習を、根性論と努力だけで乗り切るのは時代遅れと言えるでしょう。
理科の講師だからこそ持っている科学的視点を、ぜひともお役立ていただければと思います。
次回もお楽しみに!