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投稿日:2016年10月13日

テーマ: その他

記憶の科学④「メモリーペグと記憶法」

皆さんこんにちは。

受験ドクターの科学大好き講師、澤田重治です。

 

今回は、学習には欠かせない「記憶」というものを科学的に考えるシリーズの第4弾です。

 

このシリーズでは、単なる経験則だけではなく、学習には欠かせない「記憶」の仕組みを科学的に考え、効率よく覚える方法を紹介していきます。

どうぞご期待ください!

 

さて、第4回は、第3回で予告をしておりました「イメージ記憶のコツ」について、私自身の経験を基にして書いてみたいと思います。

 

 

 「記憶法」というゲーム 

 

私が子どもの頃通っていた小さな塾では、子どもたちに「記憶法」と呼ばれるゲーム(?)を教えていて、合宿などではその大会みたいなものまでありました。

 

この記憶法では、問題として出された「番号」と「言葉」を一緒に記憶し、その精度を競います。

一通りの問題を覚えた後、番号を言われれば言葉を答え、言葉を言われれば番号を答えるのです。

(合宿での大会では、単純にすべての番号と言葉を列記して解答していました。)

 

生徒側は、それぞれの力量に応じて、20問,30問,40問の中から参加するコースを選択します。

その問題は、こんな感じでした。

 

1~20番……単純な名詞が中心。時々、固有名詞や知らないものの名前なども混ざっていました。

(例) 「子ネコ」,「せんぬき」,「鹿せんべい」,「キング牧師」 など

21~30番……名詞の前にちょっとした形容詞がついたり、動作を表す言葉だったりしました。

(例) 「美しいキツネ」,「とても高いビル」,「おやつを食べた」 など

31~40番……ちょっとした文章(短文)のようなものでした。

(例) 「青い帽子と緑のハンカチをバッグに入れる」 など

 

出題者は、これらを「1番、卒業式。1番、卒業式。――2番、消しゴム。2番、消しゴム。」という要領で、ゆっくりはっきりと、2度ずつ口頭で問題を言っていきます。

そして、生徒側は一切のメモを取ることなく、聞くだけで覚えていくのです。

このとき、「食べた」が「食べる」になってしまっただけでも不正解とされます。

もちろん、「小さい犬」と「小さな犬」も区別されます。

 

では、例題を作りますので、試しに皆さんも20問コースにチャレンジしてみてください。

音声で……という訳にはいきませんので、今回は文字で出題していきます。

念のため、言葉の後ろにはかっこ書きで読み方をつけておきますので、参考にしてください。

 

【問題】 次の「番号」と「言葉」を、併せて覚えてください。制限時間は5分です。

1番 コアラ (こあら)

2番 光合成 (こうごうせい)

3番 利根川 (とねがわ)

4番 三角定規 (さんかくじょうぎ)

5番 合格発表 (ごうかくはっぴょう)

6番 夏休み (なつやすみ)

7番 ボンド (ぼんど)

8番 ロッキー山脈 (ろっきーさんみゃく)

9番 体重計 (たいじゅうけい)

10番 長良川 (ながらがわ)

11番 腰痛 (ようつう)

12番 チョモランマ (ちょもらんま)

13番 生八つ橋 (なまやつはし)

14番 シリウス (しりうす)

15番 代々木 (よよぎ)

16番 参勤交代 (さんきんこうたい)

17番 コンパス (こんぱす)

18番 カンガルー (かんがるー)

19番 接着剤 (せっちゃくざい)

20番 万年筆 (まんねんひつ)

 

 

さて、いかがでしょうか?

ちゃんと時間内に覚えられましたか?

 

単純な名詞・固有名詞のようで、いくつか意地悪な仕掛けがされていたことに気がついたでしょうか?

 

たとえば、川の名前が2つ出てきましたが、きちんと区別されていますか?

山脈と山の名前が重なっていましたし、オーストラリアに生息する動物も2種類いました。

「ボンド」と「接着剤」は、イメージで覚えるときには困ります。

物体が存在しない「夏休み」や「腰痛」もやっかいですね。

 

これだけのものを5分間で、しかも、番号と同時に覚えるのは至難の業です。

集中力と気合と根性だけで何とかなるのは、せいぜい10個程度までではないでしょうか?

 

試しに問題を出してみます。

皆さんは、いくつ答えられますか?

 

(1) 12番の言葉は何でしたか?

(2) 「生八つ橋」は何番でしたか?

(3) 3番の言葉は何でしたか?

(4) 「代々木」は何番でしたか?

(5) 4の倍数番号の言葉だけを順番に言ってみてください。

 

 

 「記憶法」の極意 

 

さて、この難題に立ち向かうには、やはり武器が必要です。

丸腰で戦いを挑んでも、あれだけの問題を5分で覚えきるのは不可能だと思いますよ。

 

記憶法の極意は、「メモリーペグ」と呼ばれるものと、第3回のブログでご紹介した「エピソード記憶」です。

一つずつ、順を追って説明していきましょう。

 

 

(1) 「メモリーペグ」の活用

 

実は、この記憶法というゲームをクリアするには、事前準備が必要なのです。

それは、挑戦する問題数に応じて、使う番号一つ一つに対応する「イメージ」を用意しておくことです。

そして、この「番号を表すイメージ」のことを、「メモリーペグ」と呼んでいます。

 

「メモリー」は「記憶」、「ペグ」は「杭(くい)」と訳せますね。

つまり、「メモリーペグ」というのは、「記憶をつなぎとめるための杭」という意味になります。

使い方は後ほど説明するとして、いくつか私が使っているメモリーペグを紹介してみたいと思います。

 

私の場合、1番に対しては「王貞治さん」というメモリーペグを用意してあります。

若い人には通じないかもしれませんが、これは、かつての背番号が1番だったからですね。

同じ要領で、3番は「長嶋茂雄さん」です。

念のため断っておきますが、私はジャイアンツファンではありません。

ただ、やはり番号から連想するイメージが強いので、メモリーペグとしては使いやすいのです。

 

そして、2番のメモリーペグは、数字の形から「アヒル」としました。

8番も、数字の形から「雪だるま」です。

ちなみに、この「雪だるま」は、動かない本物の雪だるまよりも、オラフみたいに動くイメージの方が使いやすいと思いますよ。(理由は後で分かります。)

 

他には、語呂合わせから作ったメモリーペグというのもあります。

例えば、13番は、「十(とお)」と「三(さん)」から「父さん」です。

20番までの数字ではありませんが、25番の「双子(ふたご)」、30番の「さんま」なども語呂合わせですね。

どうしても、数字が大きくなってくると語呂合わせが増えてきます。

 

さて、これらメモリーペグをどうやって使うのか?

そのカギが「エピソード記憶」というわけです。

 

 

(2) 「エピソード記憶」で覚える!

 

「記憶の科学」第3回のブログでも紹介しましたが、エピソード記憶というのは、実際に体験したことや、イメージしたことに関する記憶のことです。

(お忘れの方、ご存じない方は、ぜひこの機会にお読みください!)

 

エピソード記憶は少ない回数でも強い記憶の強度を持つことが特徴です。

そして、その経験やイメージが珍しいものであればあるほど、強く記憶に残ります。

この性質を利用して、短時間でも鮮明に記憶するのが記憶法の極意なのです。

 

実際に、先ほどの例題を使って、メモリーペグとエピソード記憶の使い方をお見せしましょう。

 

例えば、8番の問題は「ロッキー山脈」でした。

この場合、8番を表すメモリーペグである「雪だるま」と、お題である「ロッキー山脈」とを、イメージで結びつけていくことになります。

ただし、ロッキー山脈をバックに雪だるまがポツンと置いてあっても、なかなかインパクトのあるイメージにはなりません。

また、仮に「山脈」がイメージできたとしても、それが「ロッキー山脈」なのか「アルプス山脈」なのかまで区別しておかなければ、後から正確に思い出すことはできなくなってしまいます。

 

そこでひと工夫してみます。

シルベスター・スタローンが主演したボクシング映画の名作「ロッキー」にこじつけて、雪だるまが「エイドリア~ン!!」と叫ぶところを想像してみるのです。(これも若い人には通じないですね……。)

私の頭の中のイメージを絵にしたらこんな感じです。(※画力については触れないでください。)

エイドリアーン

 

いかがでしょうか。

こんなのが頭の中に浮かんだら、さすがに一発で、「8番(雪だるま)が『ロッキー山脈』だった」って覚えられるのではないですか?

 

このイメージは、大げさだったり、現実にはあり得ないものであったりと、突飛なものほど強く記憶に残ります。

マンガ的な発想が求められると言っても良いかもしれません。

これこそが、エピソード記憶を利用して暗記するコツ――極意なのです。

 

いかに面白くてインパクトのあるイメージを浮かべられるか……少し練習して慣れてくると、短時間でイメージを描くことができるようになりますよ。

そして、そんなイメージを考えること自体が、楽しみながら学習することにもつながるのです。

 

 

さあ、まずは皆さんの、オリジナル「メモリーペグ」を作ってみてください。

より簡単に、楽しいイメージを作るためには、動くものの方が使いやすいですよ。

 

そして、メモリーペグができたら、ぜひもう一度、先ほどの例題にチャレンジしてみてください。

「ボンド」は西洋人風、「接着剤」は中国人風にするなど、似たもの同士を区別する方法も、自由な発想で楽しみながら工夫してみてくださいね。

もちろん、最終的には学習に役立てることが目的ですから、積極的に利用していきましょう!

 

 

教育は科学です。

学習を、根性論と努力だけで乗り切るのは時代遅れと言えるでしょう。

 

理科の講師だからこそ持っている科学的視点を、ぜひともお役立ていただければと思います。

次回もお楽しみに!

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