皆さんこんにちは。
受験ドクターの科学大好き講師、澤田重治です。
このシリーズでは、学習には欠かせない「記憶」というものを、科学的に考えていきます。
今回はその第2弾として、「好きこそものの上手なれ」ということわざを検証してみたいと思います。
しばらくは私の体験談が続きますが、どうか最後までお付き合いください。
将来の夢
まずは、思い出話をしてみたいと思います。
大学の理工学部を卒業し、理系科目の指導をさせていただいている現在の私は、誰がどう見ても完璧な「理系人間」でしょう。
しかし、小学校の卒業アルバムを見てみると、「将来の夢」という欄には、何と「弁護士」と書いていました。
それなのに、どうにも社会科が嫌いで……。
中学生になり、弁護士になるためにはたくさんの法律や法令、裁判事例などを覚えなければならないという現実を知って、早々に弁護士の夢をあきらめることになるのです。
そう、夢を追うことよりも優先するくらい、なぜか社会科が大嫌いで、苦手だったのです。
そして、高校生になった頃、次に出会った将来の夢は、またしても理系からは程遠い「小説家」でした。
己を知らないというか、懲りないというか……いやはや、今思うと、何ともお恥ずかしい限りです。
しかし、さすがにその頃の私は、多少の成長をしていたとみえて、きちんと現実を見ていました。
そう、「社会科が苦手だ」という現実を。
だから、理系コースか文系コースかを選択する場面では、迷わずに理系コースを選択したのです。
ただただ、社会科から逃げるためだけに!
社会科の脳みそが壊れている?!
そんな、筋金入りの社会科嫌いだった私のテスト勉強は、かなり偏ったものでした。
試験1週間前には、他教科の学習をすべて終えておいて、直前1週間は社会科の勉強しかしないのです。
理由は簡単。
どうせすぐに社会科は忘れてしまう(と思い込んでいた)ので、ギリギリに覚えて、忘れる前にテストを受けようという作戦だったのです。
我ながら浅はかですね……。
でも、そんな極端なことをしてしまうくらい、社会科嫌いには本当に悩まされていたのです。
そして、本気で思っていました。
「僕の頭の中は、社会科の脳みその部分だけが壊れているんだ!」と。
タツノオトシゴの真実
やがて、大学に入学した私は、小説家の夢を胸にしまったまま、某大手進学塾で塾講師のアルバイトを始めました。
もともと恩師への憧れもあった私は、教えることの楽しさにすっかり目覚めてしまい、自分の学業よりも、塾での指導を優先するようになっていったのです。
そんな毎日の中で、様々な指導法を考えるうちに理系人間の血が騒いだようで、「どうせ講師をするのなら、理にかなった方法で教えて、どの先生よりも効果的に成績を上げてやりたい!」と強く思うようになりました。
そこで、記憶のシステムを真剣に学ぼうと考え、大学の図書館で、「大脳生理学」の本を借りてきたのです。
もう、20年以上も前のことですから、今となっては書名なども思い出せませんが、この本との出会いは、私にとって衝撃でした。
その後の講師人生を根底から変えたといっても過言ではありません。
そこには、
「すべての記憶は、『海馬(かいば)』と呼ばれる『記憶の脳』で行っている」
と書かれていたのです。
つまり、大好きなアーティストの唄の歌詞も、友達の名前も、あれほど苦しめられた社会科の用語も、すべて脳の中の同じ場所で覚えているのだと……。
えっ? じゃあ、「社会科の脳みそが壊れている」という私の思い込みは間違い?
社会科だけがどうしても覚えられなかった私の体験は気のせい?
頭を特大ハンマーで殴られたような衝撃を受けつつ、夢中になって読み進めました。
するとそこには、重大な記憶の秘密が書かれていたのです。
要点を列記すると、以下のようになります。
● 脳の中には「海馬」と呼ばれる「記憶の脳」があり、すべての記憶は海馬が行っている。(「海馬」という字は「タツノオトシゴ」とも読み、記憶の脳がくるりと丸まった形をしていることからこのように名付けられた。)
● 海馬の横には「扁桃核(へんとうかく)」という「感情の脳」があり、人間の快不快を判断している。(ちなみに、「扁桃」は「アーモンド」のことらしい。)
● 扁桃核は、判断した「快不快」の結果を、脳内物質を分泌することで周囲の脳に伝えている。(電気信号ではなく、実際の物質をだしているらしい。)
● 海馬は、扁桃核からの脳内物質を受けることで活動の様子が変わる。(つまり、「快」の感情のときは活発にはたらき、「不快」なときは極めて活動が鈍くなる。)
これらの情報から考えると、私が社会科を苦手としていたのは、以下のように、「単なる思い込み」だったということになります。
【苦手科目ができる仕組み】 ~負のスパイラル~
① 何かの拍子に偶然社会科が嫌いになる。
② 嫌いな社会科の勉強をするときは、扁桃核が「不快」という判断をするので、海馬が十分に機能しない。
③ 記憶の脳がはたらいていない状態で学習するから、ちっとも覚えられない。
④ テストを受けてみると結果がボロボロなので、さらに社会科が嫌いになる。
好きこそものの上手なれ
さて、いよいよ結論です。
先ほど紹介した私の体験談を逆に考えると、効率よく記憶するためのヒントが見えてきますね。
つまり、正のスパイラルを起こせばよいのです。
【得意科目ができる仕組み】 ~正のスパイラル~
① 何かの拍子に、ある科目が好きになる。
② 好きなことをしているときには、扁桃核(=感情の脳)が「快」の判断をする。
③ 扁桃核が分泌した脳内物質を受けて、海馬(=記憶の脳)が活発に活動する。
④ 特に努力をしなくても、目にしたもの、耳にしたものがどんどん記憶されていく。
⑤ テストでも好成績を収めて褒められるので、もっとその科目が好きになる。
もうお分かりですね。
「好きこそものの上手なれ」は、科学的に説明できる現象なのです。
お子様の学力を伸ばそうとするなら、まず考えるべきことは、「どうやって勉強を好きにするか」でしょう。
もし、すでに苦手科目ができてしまっているなら、一日も早く、その「負のスパイラル」を断ち切ってあげることが重要です。
これらの理論を踏まえて、ぜひ科学的に効率の良い方法で学習をさせてあげてください。
教育は科学です。
学習を、根性論と努力だけで乗り切るのは時代遅れと言えるでしょう。
理科の講師だからこそ持っている科学的視点を、ぜひともお役立ていただければと思います。
次回もお楽しみに!