皆さん、こんにちは。
受験Dr.英語科・社会科講師の白石 聡と申します。
今日は、前回に引き続き、7月3日に発行開始が決定している、新紙幣について、お話していきます。
前回、紙幣に採用される人物の条件や特徴について、お話して終わっていますので、今回は新紙幣にデザインされる人物の深掘りを行い、前回の紙幣と比較していきます。
では、それぞれどんなことをした人物なのか振り返ってみましょう。
・2024年発行の紙幣
【1万円札】 渋沢 栄一
「近代日本経済の父」・「近代日本資本主義の父」・「実業の父」など、いろいろな呼ばれ方をする渋沢栄一は、生涯で約500もの企業の設立に携わった実業家です。1872年に操業が開始された富岡製糸場や、現在の東京ガス・日本郵船・東京商工会議所・みずほ銀行・一橋大学なども渋沢栄一が携わっています。そんな数多くの企業を設立した渋沢栄一ですが、財閥を作らなかったことも押さえておきたいポイントです。これは、個人が利益だけを追求するのではなく、社会をより豊かなものにしていく事も重要視していた、渋沢栄一の理念によるものです。“利益“と“道徳(公益)“を追求する事が、日本が発展していく上で必要不可欠だと説いていたのです。
【5千円札】 津田 梅子
津田梅子は女子教育に尽力した女性として有名です。
1871年、6歳のころに、岩倉使節団が募集した女子留学生の一人として、アメリカに渡りました。2度の留学の後、日本の女性が地位を確立していくには、学問が必要だと考え、女子英学塾(現在の津田塾大学)を創立しました。津田塾大学が掲げる、『個性を重んじる少人数教育と高度な英語教育により、高い専門性と豊かな教育を身につけたオールラウンドな女性を育成する』(※1)という教育理念からも、津田梅子が1人1人の学生と向き合っていた様子がうかがえます。また、津田梅子は欧米の学術雑誌に論文が掲載された最初の日本人女性としても有名です。
【千円札】 北里 柴三郎
「近代日本医学の父」・「細菌学の父」などと呼ばれる、北里柴三郎は、「医者の使命は病気を予防することにある」という考えから、予防医学を研究することに生涯を尽くした、医学者です。東京医学校(現在の東京大学医学部)で学んだ後、当時世界的に有名だった医学者コッホに師事を仰ぐため、ドイツに留学しています。留学中、破傷風の血清療法を確立したことは必ず覚えておきましょう。また、帰国後、福沢諭吉の支援を受けて伝染病研究所を設立したこともよく問われるポイントです。黄熱病の病原菌の調査で有名な野口英世や、赤痢菌を発見した志賀潔も、伝染病研究所出身です。その後、香港でペスト菌の発見、伝染病研究所が文部省に移転したタイミングで、辞任し、北里研究所を創立しました。そして、慶應義塾大学医学科を創設し、初代医学科長を務めたことまで押さえておきましょう。(参考➀)
次に、1つ前の紙幣のデザインに起用された人物を見ていきましょう。
こちらの紙幣は、全て平成19年(2007年)4月2日に発行を終了しています。ですが、現在も使用することは可能です。また、日本銀行では、古い紙幣を新しいものと交換してくれるサービスもあります。
・1984年発行の紙幣
【1万円札】 福沢 諭吉
現在の1万円札にも採用されている福沢諭吉は、幕府が派遣する遣欧米使節に3度参加し、蘭学・英語を学んで見聞を広げました。それを基に、「天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらずといへり」という文から始まる、『学問のすゝめ』を著したことは、しっかりと覚えられていますでしょうか。また、1868年、慶應義塾大学を創立したことも必ず覚えておきましょう。さらに、福沢諭吉は、大阪に開かれた私塾である、『適塾』にて、緒方洪庵から蘭学を学び、他人の幸せや利益を優先し大切にする生き方を学んだとされています。『学問のすゝめ』以外にも『文明論之概略』や『西洋事情』など、多くの作品を残し、西洋文明の精神を日本に伝えたことを押さえておきましょう。
【5千円札】 新渡戸 稲造
新渡戸稲造は、江戸時代に生まれ、明治・大正・昭和にかけて日本の近代化に尽力した人物です。
1920年~1926年まで、新渡戸稲造が国際連盟の事務次長を務めたことは、皆さん押さえているかと思います。また、必ず押さえておきたいのが、新渡戸稲造が著した『武士道』です。この本は、日本人の道徳心(道徳思想)を形成するものについて、世界に向けて書かれたものです。海外のように宗教が根強く浸透していない日本で、なぜ道徳心が形成されたのかを詳しく記述しています。原作は英語で書かれ、1899年にアメリカで出版されました。現在では英語だけでなく、7か国語に翻訳されています。アメリカ大統領、セオドア=ルーズベルトの愛読書としても知られています。また、日本の女子教育が世界に比べ遅れていると感じ、津田梅子が創立した女子英学塾の顧問を務めた人物である点も覚えておくと良いでしょう。
【千円札】 夏目 漱石
夏目漱石は、明治時代を代表する近代日本文学の文豪であり、教員でもあります。帝国大学(現在の東京大学)に進学し、俳人として近代文学に大きな影響を与えた正岡子規と同窓であることも、覚えておきましょう。
「夏目漱石」というのは、実は本名ではなく、ペンネームというのを聞いたことはありますでしょうか。「夏目漱石」は作品を書く時の名前で、本名を夏目金之助と言います。「漱石」という名前は正岡子規のペンネームの一つで、譲り受けたといわれています。また、『坊っちゃん』・『吾輩は猫である』の他にも、夏目漱石が残した作品には、前期三部作と後期三部作と呼ばれるものがあります。前期三部作とは、『三四郎』・『それから』・『門』、後期三部作は、『彼岸過迄』・『行人』・『こころ』です。受験までに必ず覚えておきましょう。夏目漱石に関わらず、作品名・作者名を答える問題を出題する学校もありますので、出題傾向を確認し、必ず押さえておきましょう。
いかがでしたでしょうか。
紙幣に採用される人物は、全員共通して日本の各分野の発展に貢献した人達です。
今年度の試験では、新紙幣に関わる問題が出題される可能性が高く、対策しておくことはもちろんですが、紙幣に関係なく、それぞれの人物が何をした人なのか押さえておくことは、中学受験社会ではとても大切です。
この機会に、もう一度見直してみましょう。
それでは、また次回お会いしましょう。
引用①
津田塾大学 『津田塾の学びと特徴』 (2024年5月8日閲覧)
https://www.tsuda.ac.jp/learning/index.html
参考➀
学校法人北里研究所 『北里柴三郎の生涯』 (2024年5月8日閲覧)
https://www.kitasato.ac.jp/jp/kinen-shitsu/shibasaburo/lifetime.html