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投稿日:2019年07月18日

テーマ: 算数

場合の数-理屈をともなう正しいイメージを

皆さま、こんにちは!
いよいよ夏本番。
受験生のお子様にとっては勝負の夏ですね。
志望校合格に向けてがんばりましょう!

さて、前回・前々回と「場合の数」をテーマにした話題を扱いました。
今回も引き続き「場合の数」をテーマに書いていきます。
ただ、前回・前々回は少し難しかったかもしれないので、今回はもう少し基本的なことをお話します。

ちょっと前に、あるお子様と一緒に「場合の数」の復習をしました。
6年生のお子様なので、基本的なことは理解しているはずです。
そこで、いきなり問題を出してみました。
まずは一問目。
「A,B,C,D,E,Fの6人のうち3人が一列に並ぶ方法は何通り?」
そんなの簡単!とばかりに、その子は6×5×4=120とノータイムで計算して答えを出しました。
なかなかいいですね。

では、二問目。
「A,B,C,D,E,Fの6人から3人を選ぶ方法は何通り?」
それも知ってる!といった感じで、その子はまたノータイムで6×5×4÷6=20と答えを出しました。
うん、これもちゃんとできていますね。
ただ、このときにちょっとした違和感がありました。
そこで「A,B,C,D,E,F,G,Hの8人から4人を選ぶだったら?」と聞いてみました。
するとその子は「それは知らない」と答えました。
「じゃあ、さっきの計算はどう考えてやったの?」とたずねると、
「2人なら2で割る、3人なら6で割ると覚えている」というのがその子の答えでした。
「じゃあじゃあ、最初の6×5×4ってどういう意味?」とさらにたずねると、
「う~ん、説明はできないけど、いつもこんな風に解いているから…」という答えでした。

よくある話ですね。
理屈を理解せずに、計算方法だけ丸暗記しているパターンです。
「8人から4人を選ぶ方法」を8×7×6×5÷(4×3×2×1)=70と正しく計算できたとします。
それでも、じゃあその計算の理屈は?と聞いたときに、きちんと説明できないという人も必ずいるはずです。
レベルの違いはあれ、どちらにしても解法だけ丸暗記なのには違いはありません。

ただし、これについては仕方のない部分もあります。
テキストによっては、公式しか書かれていないものもあります。
先生によっては、とりあえず覚えておきなさい、と指導する場合もあります。
必ずしも、お子さんの理解不足や勉強不足のせいではないのです。
しかも、とりあえず覚えておくだけで点数になることがあるのも事実です。
高校生でも、組合せの計算の理屈をきちんと説明できない人の方が多いのではないかと思います。

もちろん、解法の丸暗記だけで終わってしまってはもったいないですし、応用も利きませんね。
できるだけ本質を理解して、さまざまに応用できるようになりたいものです。
今日はこの辺りのことを考えていきます。

それでは「A,B,C,D,E,Fの6人から3人を選ぶ方法」が6×5×4÷6=20になる理由を考えてみましょう。
ポイントは「ベースは樹形図」「計算の基本は順列」「ダブりを消す」の3つです。
段階を追って順々に考えていくことが大切ですので、今回も焦らず一歩一歩行きましょう。

ファーストステップは「A,B,C,D,E,Fの6人のうち3人が一列に並ぶ方法は何通り?」がわかるかです。
選び方ではなく、並び方から先に考えてみます。
これは樹形図を使って書き出すのが基本ですね。
以下のような樹形図になります。

場合の数 イメージ1

まずはこの樹形図が書けることが大前提です。
そして、これが書けるようになると、これが計算で処理できることもわかってきます。
先頭を6人から、二番目を残り5人から、三番目を残り4人から選ぶ、ので6×5×4ということです。
このような順番のある「場合の数」を順列(並び方)と言います。
高校数学なら以下のように表現したりしますね。

場合の数 イメージ2

順列は、英語ではPermutation(パーミュテーション)なので、その頭文字をとってPです。
高校生のときに覚えたなー、と懐かしくなりますよね。
ただ、この式を丸暗記することにはあまり意味がありません。
大切なことは、これは樹形図を数式で表現しているだけだ、というイメージを持つことです。
6×5×4=120と計算するときに、頭の片隅にぼんやりとでも樹形図が浮かんでいることが重要なのです。
もれなく正確に数え上げるためには、すべて書き出して数えるのが一番確実な方法です。
その作業を式に置き換えたものがPの公式なのだ、と理解しましょう。

こういった計算方法を勉強すると、樹形図を書く作業を面倒くさがるお子様が必ずあらわれます。
気持ちはわかります!
できるだけシンプルで速い処理を心がけることは大切なので、面倒くさがるのもすべてダメではありません。
しかし、「場合の数」の計算のベースは、結局は樹形図なのだということを、忘れてはダメです。
難しい問題になってくると、部分的にでも書き出す作業が必要になる、ということもたくさん出てきます。
コンピューターなども、基本的には「すべて書き出す」ということを繰り返して、様々なことを処理しています。
ただ、そのスピードが人間と比べて圧倒的に速いし、疲れたりもしないので、便利なだけです。
ですので、樹形図を決しておろそかにせず、そのイメージをいつも頭の片隅に置いておくことが大切です。
難問を計算で処理する場合、正しい計算方法をつかみとれるかは、このイメージにかかっています。

さて、ここまでが理解できると、これだけでも様々な「場合の数」を計算で求められるようになります。
極論を言えば、「場合の数」に関する計算のほとんどが、順列の計算の応用や発展でしかないのです。
この辺りまでわかってくれば、セカンドステップもクリアです。
例えば、次のような問題はどうでしょう?

「男の子4人と、女の子3人が一列に並びます。女の子3人が連続する並び方は何通りですか?」

メチャクチャ仲良しな女の子3人組で、女の子同士の間に男の子が入ってはいけないということです。
こういう場合は、この3人の女の子を1人に合体させ、全部で5人の順列と考えるのが筋です。
以下のようにイメージして考えてみてください。

場合の数 イメージ3

3人の女の子の並び方の数だけ、パターンを増やす必要があることに注意してください。
これも、理解があいまいなお子様だと、3人だから3倍、と間違えることがよくあります。
3人の並び方だから、3×2×1=6で、6倍すると考えるのが正しいですね。
このときに、2通りの順列を考え、それをかけ算して答えを出していることに注目してください。
あくまで順列の計算の積み重ねでしかないですよね?

では、先ほどの問題をこう変えてみます。

「男の子4人と、女の子3人が一列に並びます。男女が交互になる並び方は何通りですか?」

この場合は、男の子の並び方を先に作ってしまい、その間に女の子を入れていくと考えるのが筋です。
以下のようにイメージして考えます。

場合の数 イメージ4

この問題も先ほどとほとんど同じで、2通りの順列を考えてから、それをかけ算していますね。
「計算の基本は順列」ということが、わかりましたでしょうか?

それでは最終ステップです。
「A,B,C,D,E,Fの6人から3人を選ぶ方法」を考えてみましょう。
ポイントは「ダブりを消す」です。
先ほど、「A,B,C,D,E,Fの6人のうち3人が一列に並ぶ方法」は、6×5×4=120と求めました。
この120通りよりも、「A,B,C,D,E,Fの6人から3人を選ぶ方法」の方が絶対に少ないはずですね。
「3人が一列に並ぶ方法」の中に、「3人を選ぶ方法」がいくつもダブって存在しているはずだからです。
とすると、何倍ダブっているのかがわかれば、並び方から選び方に変えることができます。
この点に注意しながら、以下のように考えてみてください。

場合の数 イメージ5

わかりますか?
先ほどのふたつは、順列同士をかけ算していましたが、今度は順列同士のわり算ですね。
どのくらいダブりがあるのかを、順列を利用して計算しているだけです。
何倍ダブりがあるのかさえわかれば、簡単に並び方から選び方に変えることができます。
このように順番のない「場合の数」を組合せ(選び方)と言います。
高校数学なら以下のように表現したりしますね。

場合の数 イメージ6

組合せは、英語ではCombination(コンビネーション)なので、その頭文字をとってCです。
やはりこの場合も、この式を丸暗記することには意味がありません。
大切なことは、2つの順列を利用してダブりを消すことで求めているのだ、というイメージを持つことです。

冒頭で書いたお子様にも、このような流れで説明をし、問題を解いてもらいました。
そして最後に「A,B,C,D,E,F,G,Hの8人から4人を選ぶだったら?」とあらためて質問しました。
すると、その子は数秒考えてから、8×7×6×5÷(4×3×2×1)=70と計算しました。
「10人から5人を選ぶだったら?」と、念のためさらに質問しました。
今度はすぐに、10×9×8×7×6÷(5×4×3×2×1)=252と答えを出しました。

どうやらきちんと理解できたようです。
もちろん、ただ公式を与えたわけではありません。
そうではなくて、きちんと理屈を説明し、正しいイメージを持った結果、自力で解けるようになったのです。
あとは、正しいイメージを忘れないように、繰り返し反復練習をして定着させるだけです。
もちろん、ただ闇雲に問題を解くのではなく、1問1問正しいイメージを確認しながら解くことが大切です。

さて、ここまでの指導をするのに、どのくらいの時間がかかったでしょう?
今回は、35分くらいかかりました。
この35分を長いと感じるか短いと感じるかは、人によると思います。
しかし、ここまできちんと理解していた方が、その後の学習がスムーズなのは言わずもがなですよね?
「ダブりを消す」というのは「場合の数」の計算では大切なテクニックで、他の様々な問題に応用ができます。
これについては、次回さらに詳しくお伝えしようと思います。

今回お伝えしたかったことは、理屈をともなった正しいイメージを身につけることの重要性です。
もしそれがないなら、一見遠回りのようでも、一度基本に立ち返って学びなおした方が良いです。
長い目で見れば、そちらの方がより効率的でムダのない学習ができると思います。
受験生にとっては、この夏がそういった復習ができる最後のチャンスです。
悔いのない夏になるように頑張ってください!

算数ドクター