メニュー

投稿日:2023年07月28日

テーマ: その他

【よくあるお悩み】ミスを減らすには?➁

皆さま、こんにちは!

さて、前回からご家庭のよくあるお悩みについて考えてみようという企画をスタートさせました。
その第1弾として、「ミスを減らすにはどうしたらいいですか?」というお悩みについて考えています。
前回は「ミスってそもそも何?」という、やや抽象的な話から考え始めました。
今回は、私が実際に現場で遭遇した事例を使って、どのような対応をしているかをご説明します。
 

【ケース① わかってはいるけど…】

前回のブログで、ミスが少なくない人は、自分の犯したミスをよく覚えているものだ、と書きました。
ミスの分析をして、次に同じような状況になったときにどうすれば良いかを考えておくということが大切です。
しかし、「わかってはいるけど…」ということが多いのも事実です。
まずは、前回お伝えしたことと矛盾するような事例から考えてみます。

私が最近指導を始めたAくんという子がいます。
Aくんは、ちょっと慌てすぎ、急ぎすぎで、早とちりや勘違いが多い感じです。
毎回の授業の最初に、前回の授業の確認テストをするのですが、そのときもミスが多く再テストになりました。
問題も解答もすべて渡して、再テストのために復習をしてくるように伝えて、その日の授業は終わりました。
次の週に再テストをしたのですが、Aくんは問題を見て「あー、このまえミスったの、この問題だ」と呟きました。
私はそれを聞いて「そうそう、そうやって自分の間違えたものを覚えていることが大切だよね」と答えました。
たまたま、前回のブログを書いた直後の授業だったこともあり、これなら大丈夫かなと、ちょっと思いました。
ところが、私の甘い期待はあっけなく砕かれました。
Aくんはまったく同じ問題を、まったく同じようなミスをして間違えたのです!

さて、この状況をどう考えるべきでしょうか?
Aくんは「またミスったー」と言って、頭を抱えていました。
気持ちはわかります。
しかし、これはミスと呼ぶべき問題なのでしょうか?
私は、これは単に実力不足だと判断しました。
ミスで間違えているというよりも、単に解法が未定着なだけ、明確な理屈を持って解けていないだけです。
実際にどんな風に考えてその問題を解いたのかAくんに聞くと、その説明は少し曖昧な部分がありました。
しかし、この「この少し曖昧」というのが実は大きな問題で、それでは間違えるのは仕方がないです。
前回のブログで、安易にミスという言葉を使わない方が良いと書きました。
このケースがまさにそうで、これはミスと呼んで片付けていいような状況ではないと思います。

ミスと多くの人が呼んでいることの大部分は、単なる実力不足ではないかと私は考えています。
前回、ミスも実力のうちとも書きましたが、そもそも何事も上級者というのはミスが少ないものです。
では、なぜミスが少ないかというと、色々と理由は考えられますが、大きな理由は「余裕がある」ということです。
実力が100の上級者と、実力が10の初心者では、同じ10のことをやるにも意味がまったく違います。
上級者は10%の力を出せば片付けられるものでも、初心者はフルパワーを出さないと処理できません。
余裕があれば、見落としがないか確認したり、複数のやり方で解いて答えが一致するかチェックしたりできます。
しかし、フルパワーを出しているような状況では、目の前のことに精一杯で、他のことに気を配るのは無理です。

テストのときは解けなかったのに、家に帰って解き直してみたらできた、ということも良くあります。
「解けたはずなのに…」と落ち込みますよね。
それが、計算ミスなどが原因での取りこぼしなら、なおさらです。
さらに、そこを「なんでこんなミスをしているんだ!」と先生やお家の人に強く指摘されたら、もっと落ち込みます。
それなら、ミスではなく総合的な実力不足だと考えて、さらにトレーニングに励む方が建設的だと思います。
ミスを咎めるのではなく、「実力不足だね、じゃあもっと練習しよう!」と前向きにリードするのです。

ということで、話をAくんに戻しますが、Aくんの場合も総合的な実力アップを考えよう、という結論になりました。
「ミスったー」と落ち込むAくんにも、「いや、それは練習不足でしょ」と伝えました。
Aくんはとても素直で、「じゃあもっと練習しようー」と言っていたので、その発言を褒めてあげました。
そして、いまは様々な基本問題の地道なトレーニングに取り組んでいます。
この先どうなるかはまだわかりませんが、ミスが多いと怒られるよりは、前向きに勉強できているでしょう。
Aくんには高いポテンシャルを感じるので、正しいトレーニングを続ければ伸びていくはずだと信じています。

 

【ケース② そんなまさか…】

先ほどのケースと似ている例をもう一つ挙げます。
2年ほど前に指導をしていたBさんという女の子の話です。
Bさんもミスが多いタイプだということを、ご両親から事前に聞いていました。
授業で見てみると確かにBさんもミスが多いです。
彼女の場合は、ミスが多いはっきりとした理由がありました。
計算をするときに大部分を暗算でやっていて、ほとんど式を書かないのです。

誤解のないように先に断っておくと、暗算をすること自体は決して悪いことではないです。
暗算で処理できる方が確実に計算スピードは速くなるし、正確であるならむしろミスは減るはずです。
暗算は頭の中で計算しているわけですが、あれはほとんどの場合、計算の結果を覚えているだけです。
そしてこれは、暗算に限らずすべての計算について言えることで、つまり、計算の基本は実は記憶なのです。
わかりやすいのは九九で、九九は完全に丸暗記で、答えを覚えて計算していますね。
たとえば、サブロクジュウハチなどと覚えているので、3×6=18とすぐに答えはわかります。
しかし、これを覚えておらずに、いつも3+3+3+3+3+3=18と処理しているとしましょう。
この場合、前者と後者でどちらがミスの起こる可能性が高いかと考えると、間違いなく後者ですよね。
ですから、ある程度の計算の結果を覚えておいて、暗算で処理するというのはむしろ必要なことなのです。
ただし、計算が複雑になったり、長くなってきたりすると、すべて覚えて計算を続けるのは難しくなります。
そのため、ポイント、ポイントで途中式を書いたり、途中の計算結果をメモしたりという必要が出てくるわけです。

話をBさんに戻しましょう。
Bさんの場合は、自分の計算力にあわせて必要な途中式やメモを書くということが、明らかに欠けていました。
ですので、まずは必要に応じて途中式やメモを残すようにBさんに指導しました。
Bさんは素直にその指導を受け入れてくれて、指導前と比べればミスは少なくなりました。
しかし、それですべてが解決できるほど、甘くはないのです。
ある模試のあとのことです。
Bさんがその模試の答案を持って授業にやってきました。
事前の予想よりも点数は低く、大問1の計算でも、いくつか間違っている状態でした。
問題用紙を見せてもらい、実際にBさんがどんな風に計算をしているのか、チェックしてみました。
練習通りに、きちんと途中式やメモを書き残して計算はしています。
ぱっと見はおかしな処理はひとつもしていないです。
それでなぜ答えが×なのか不思議に思いながら、より細かく見ていった結果、原因を見つけて目を疑いました。
Bさんはある問題の処理の、最後の最後に「4×7=26」と書いていたのです!

「4×7」はちゃんと書いてあるのです。
しかし、なぜか答えは26なのです。
そもそも九九の答えに26なんてものはありません。
これを28としていればそれで正解だったのですが、最後の最後で信じられないことが起きていました。
これにはさすがの私も絶句するしかなく、Bさんも私にこれを指摘されて言葉を失っていました。
これがありえない間違いだということは、Bさん本人もさすがに気がついたのでしょう。
その顔には、「そんなまさか…」とはっきり書かれていました。
理由を聞いてみると、自分でもなぜそんなことをしたのかまったく意味がわからないということでした。
私はそれを聞いて、「でもまあ、そういうもんなんだよなー」と感じました。
私自身も、入試の本番でありえない間違い方をした経験があります。
あとで冷静に振り返っても、自分がなぜそんなことをしてしまったのか、よくわからないのです。

さて、この状況をどう考えるべきでしょうか?
この間違い方に対して、「次は気をつけよう」以上のことが言えるでしょうか?
九九がわかっていないはずはなく、ここまでやっての間違いには本人もショックを受けています。
計算の練習は続けてもらうとして、この場でこれ以上の追及をしても良いことはない、と私は判断しました。
ただし、自分がこういう信じられない間違いをするタイプなのだという自覚は持っておいた方が良いです。
私はそのことだけをBさんに伝えて、その日の授業は終わりました。

授業のあとに、今後入試までどのような方針でBさんを指導していくべきか、あらためて考えました。
入試本番までに残された期間は、すでにあと半年くらいになっていました。
結論は、多少のミスは起こるものと想定して、それでも合格できる実力をつけさせよう、というものでした。
入試では100点をとらないと合格できないわけではありません。
70点が合格ラインなのであれば、80点から90点をとれる実力があれば、多少のミスは十分カバーできます。
ですので、とにかくできることを増やして得点の可能性を上げること、それが合格に近づく方法だと考えました。
また、受験校を考える際も、ある程度の余裕を持って試験に臨める学校を考える必要が出てきます。
その点については、ご両親に状況を詳しく説明してご理解いただきました。
あわせて、ミスをしていることをあまり怒りすぎないようにもお願いしました。
そこを下手に注意しすぎると、逆暗示のようになって、余計にミスが増えると考えたからです。

その後、Bさんは解ける問題を増やすための地道なトレーニングをギリギリまで続けました。
入試本番が近づくにつれ、ありえないような間違い方をすることは自然と減っていきました。
その点については、何か特別な指導をしたわけではないです。
しかし、得てしてそういうものなのです。
おそらく、解ける問題が増え自分の実力が増すのを感じることによって、精神的な余裕が生まれたのでしょう。
結果として、希望する中学校にも合格することができ、無事に受験Dr.を卒塾していきました。
私としては、最低限の責任は果たしたという気持ちで、とにかくほっとしたというのが正直なところでした。

 

【深刻になりすぎずに】

ということで、今回は私が経験した2つのケースについて、どういう対応をしているかを具体的に説明しました。
ミスや間違いを咎めてそれを減らすことに注力するより、トータルの実力アップを考えましょうということです。
そちらの方がより前向きに建設的に時間と労力を使うことができるはずです。
また、あまり深刻になりすぎないように気をつけてください。
真剣になるのと深刻になるのは違います。
深刻になってしまうと、冷静な視点を失って余計に問題解決から遠ざかることになります。
そもそもすぐに解決できないような問題だってたくさんありますから、いま何ができるかを真剣に考えましょう。
次回は、また違ったケースについてご紹介します。

では、また次回お会いしましょう!

偏差値20アップ指導法