皆さま、こんにちは!
「ミスを減らすにはどうしたらいいですか?」というお悩みについて考えている第4弾です。
ここのところ、「以前はなかったようなミスをするようになってきた」というご相談を何件か続けて受けました。
すべて6年生のお子様をお持ちのご家庭からで、5年生のころまではなかったようなミスが増えているそうです。
なぜこのタイミングでそのようなことが起こるのでしょうか?
色々と可能性は考えられますが、やはり学習内容やテストの難易度が上がっているということが大きいでしょう。
問題の難易度と自分の実力の差が小さくなってきて、テストのときに余裕がなくなっている可能性があります。
また、毎日取り組んでいる問題の難易度が上がってきているので、単純に疲れているということもありえます。
「疲れ」というファクターは、ご家庭によっては案外見落としがちかもしれません。
今回は、この「疲れ」ということに関して、私が実際に現場で遭遇したケースをご紹介します。
ケース④ テストの前日くらいは…
私が3年前に指導したDさんという女の子についての話です。
Dさんは大手の中学受験塾に在籍しており、小規模な校舎でしたが、常に最上位クラスをキープしていました。
私が初めてDさんの授業をしたのは、Dさんが6年生の7月を迎えたころでした。
成績的に大きな不安はないものの、一方で伸び悩んでいる感じがするというのがお母様の悩みでした。
ご家庭で塾の宿題をやるとよく解けるのですが、テストになるとミスが多く点数が取り切れないということでした。
はっきりとここが悪いという感じはしないのだが、どうも力が発揮できていない感じがする。
なにがどうおかしいのか見て欲しい、ということでした。
科目的にも大きな得意・不得意があるわけではなく、全体的にチェックするようにお願いされました。
私は社会以外の3科目はすべて対応できるので、色々とチェックしてみることになりました。
Dさんは毎週1回、週によっては2回の授業を受けに来ていました。
実際に授業をしてみると、とても良くできます。
解き方は正確ですし、なぜそうするのかを聞いてみても、ちゃんと理屈まで含めて説明できます。
主に算数をチェックしていましたが、国語にしても理科にしても、やはり同じようにきちんとできるのです。
あまり教えることがないな、というのが私の正直な感想でした。
これだけできるのにテストで点数が伸び悩むのは、たしかに不思議な感じがします。
うまくいっていない原因がどこにあるのかは、すぐにはわかりませんでした。
ただひとつ気になったのは、Dさんの表情があまり良くなく、なんだか元気がないように見えたことでした。
疲れているのかな?とぼんやりと感じながら、1か月ほど授業を続けました。
6年生の9月がやってきました。
ここから入試までは毎週のように模試が続きます。
Dさんも次々と模試を受け、成績表が出るとお母様はすぐに私に見せてくれました。
どの模試の結果も、7月の頃と大きな変化はない感じでした。
良く言えば安定しているともいえますし、悪く言えば伸び悩んでいるともいえます。
こちらの指導としても、あまり効果が上がっていないと感じます。
お母様は、ほぼすべての授業に同席して見学されていたので、私の指導自体に不満はないということでした。
しかし、それでも結果が出ないことについては、お子様の方に問題があるというお考えでした。
あらためて時間をとって、お母様とじっくり面談をさせて頂くことにしました。
数日後にお母様との面談をむかえました。
色々とお話をさせて頂いたのですが、伸び悩んでいる決定的な原因はお伝えすることができませんでした。
私は「ちょっと疲れているのではないですか?」と、ふと以前から感じていたことをお母様に聞いてみました。
すると、お母様は「そんなことはないと思う」ということでした。
私はさらに、「テストの前日はどんな風に過ごしていますか?」と聞いてみました。
それに対しては「ギリギリまでテストに向けて勉強させている」というお答えでした。
ギリギリまでというのがどのくらいかとたずねると、深夜近くまでということでした。
「テストの前日くらいは、少し自由に過ごさせたり、早く寝かせて次の日に備えたりさせるのはどうですか?」
そう私が提案すると、お母様は少しキョトンとした表情をされました。
「睡眠不足だったりすると、集中力も低下しますし、テストで力をフルに発揮できないと思いますよ」
私が続けてそうお伝えすると、お母様はぽつりとこう言われました。
「なるほど…、そんな風に考えてみたことはなかったです…」
お母様は、テストで少しでも良い結果を出させるために、ギリギリまで頑張らせる方が良いと考えていました。
このお気持ちはわかります。
Dさんのお母様に限らず、熱心なご家庭ほど、とにかくギリギリまで勉強させなければと考えるものです。
しかし、肝心のテストで力が発揮できない状態になってしまうなら、それはちょっと本末転倒です。
心身共にベストの状態でテストに向かえるように調整するのも、勝負のうちではないでしょうか?
実際にDさんがお家でどのようにされているかは、見ているわけではないのでわかりませんでした。
ただ、いまひとつ結果が出ていないひとつの可能性として、お母様に伝えてみました。
有難いことにお母様は私をとても信頼してくださっていたので、唐突な提案も真剣に考えてくださいました。
「ちょっと、次のテストから気を付けてみるようにします」
そう言われて、お母様はお帰りになられました。
その後、お母様はテスト前日の過ごし方を色々と工夫されるようになったということでした。
正直に書くと、それでDさんの成績が劇的に良くなったかというと、そこまでではありませんでした。
ただ、明らかな凡ミスのようなものは減ったと感じました。
そしてそれ以上に、Dさんの表情が少し柔らかくなったことに、私は好感触を得ていました。
Dさんは感情をあまり表に出さないタイプでしたが、おそらく、ストレスやプレッシャーもあったのでしょう。
心に余裕がなければ、やはり実力は発揮できないです。
トレーニングである以上、負荷は絶対に必要ですが、適度な負荷をかけることが大切です。
10㎏のダンベルしか持ち上げられない人に、いきなり100㎏を持ち上げさせようとしても身体を壊すだけです。
精神的にも、そんなことやりたくないと感じるのが普通でしょう。
心が拒否してしまっていると、どんなトレーニングも効果的なものになりません。
また、疲労からの回復というポイントも重要です。
スポーツの世界では、休養もトレーニングのうち、という考え方が当たり前になっています。
トレーニングをしすぎると、オーバートレーニングという状態になって、むしろ能力が低下することもあります。
しかし、こと勉強に関しては、こういった観点を持ってトレーニングをする考え方はまだ少ないと感じます。
実際に、人間の記憶は寝ることによって定着するということが知られています。
しっかりと睡眠をとることも勉強のうち、という考え方もあって良いと思います。
中学生や高校生なら少し睡眠を削って勉強することもありますが、小学生はまだ身体的に未成熟です。
心身ともに健康な状態を保つという意味でも、しっかり寝る、しっかり休む、ということも考えた方が良いです。
最終的に、Dさんは第一志望だった鷗友学園女子中学に無事に合格しました。
お母様は受験スケジュールの設定なども細かくご相談くださり、最後まで信頼して指導をお任せくださいました。
「中学生になっても先生に娘を見てもらいたい」という有難いお言葉を頂いて、Dさんは卒塾していきました。
すべてから解放されたような、晴れ晴れとしたDさんの表情が、私の記憶に強く残っています。
休む勇気
冒頭にも書いたように、6年生になって今までにないミスが増えてきたというご相談はよくあります。
そういうときには、ちょっと頑張りすぎかなということも疑ってみてください。
中学受験の勉強内容はとにかくハードです。
特に、ここ数年の中学受験の難易度の上昇は、ちょっと行き過ぎではと思うくらいです。
それでも、必死に毎日の勉強を頑張っている中学受験生は、それだけでもえらいと私はいつも感じます。
成績が下がったり、伸び悩んできたりすると、どうしても今以上に頑張らせなくては、となります。
そこでやることを減らしたり、思い切って休んだりするということは、逆に周りとの差が開くだけに思えます。
しかし、ときとしてそういうことが必要なときもあるのです。
前回のCくんのケースもそうでしたが、頑張りすぎによる弊害もあるということを知っておきましょう。
休む勇気も大切です。
次回は、ここまでのまとめをして、いったんこのテーマを終わらせようと思います。
では、また次回お会いしましょう!