皆さま、こんにちは!
ご家庭からのよくあるお悩みについて、回答してみようという企画の第3弾です。
前回までは「中学受験で優先すべき科目は?」というお悩みについて、4回にわたってご説明しました。
最優先の科目は算数で、その理由について、データをもとにご説明しました。
また、算数のどこがどう難しいのかについても考えてみました。
今回からは、「やってもやっても伸びないのですが?」という、お悩みについて考えてみます。
これも学習相談をしていて、非常に多いお悩みのひとつです。
努力をしているのに、結果に結びつかないことほど辛いことはありません。
なぜそうなってしまうのか、具体的にどうしたら良いのかについて考えてみます。
また、これを考えることが、前回の最後に予告した算数の具体的な勉強法にもつながっていきます。
今回はイントロダクションなので、やや抽象的なお話になります。
意味のあるトレーニングとは何かを考えてみます。
なにが伸びないのか?
最初に、少し言葉の整理をしてみましょう。
まず、ここで「伸びる」と言っているのは、具体的に何が「伸びる」のでしょうか?
「伸びる」のは、実力でしょうか?
それとも、成績でしょうか?
同じことじゃないかと思われるかもしれませんが、微妙に違います。
ここは大事なところで、ちゃんと実力は伸びているのに、それが成績に表れないということはよくあります。
特に、偏差値という指標は相対的な数字です。
自分の実力が伸びていても、周りが同じように成長していれば偏差値は変わりません。
自分以上に周りが成長していれば、たとえ自分の実力が上がっていても偏差値は下がります。
偏差値に表われないとしても、自分の実力がついているのなら成長はしているわけです。
ですから、まずは本当に実力が伸びていないのかは冷静にチェックしましょう。
数字だけに振り回されずに、「ここは以前に比べてできるようになっているな」という評価は大切です。
すぐに結果に表われなくても、実力がついているなら、いずれ結果には結びつきます。
また、問題の難易度が上がってくると、ひとつの問題の中でいくつものステップをクリアする必要が出てきます。
例えば、解答にたどり着くために3つのステップをクリアする必要があるとしましょう。
最初のステップをクリアできなければもちろん✕で0点です。
しかし、2つ目まではクリアできていたのに、最後の3ステップ目がクリアできなくても、やはりこれは0点です。
どちらも点数上は0点ですが、同じ0点でも両者には明らかな違いがあります。
こういった場合も、本当のところ、どこまでたどり着いていたのかはチェックする必要があります。
以前は最初のステップでつまずいていたのが、今回は最後のステップでつまずいたのなら、成長しています。
つまり、「数字上は伸びていない」と見えていても、「実力は伸びている」ということはあり得るということです。
もちろん、成績に反映されないなら、意味がないという言い方はできます。
しかし、お子さんのモチベーションの維持のためには、実力アップを正しく評価することは重要です。
特に、中学受験の問題の難しさは、ここ数年どんどんとレベルアップしています。
少しやったくらいですぐに成績が上がるほど簡単な問題ではないのです。
ですから、なかなか成績に表われなくても、コツコツと地道な努力を続けていく必要があります。
もしかしたら、自分なりにかなり努力しているつもりだったのに、周りはもっとやっていたということもありえます。
その場合は、単純に取り組んでいる量や時間をいま以上に増やすということが必要になるかもしれません。
やればやっただけ伸びるのだという自信があれば、じゃあもっとやろうという気持ちも持ちやすいです。
そうなるためには、数字に表れない成長という部分を、きちんと見てあげる方が良いです。
解ける問題が増えていかない
以上を踏まえた上で、それでも努力のわりに実力が伸びていないということもあり得ます。
ここでいう「実力が伸びていない」とは、「解ける問題が増えていない」ということにしましょう。
毎日かなりの時間をかけて問題を解き、これ以上できないというほど練習しているのに解ける問題が増えない。
特に多いのが、目の前のプリントやテストなら解けるのに、テストになると解けないというケースです。
また、授業中のチェックテストのときは解けていたのに、実力テストになると解けないということもあります。
肝心のテストで解けないのなら、実力がついているとは言えないのではないか?
このお悩みも、特に算数の学習相談で非常に多いです。
やってもやっても解ける問題が増えていかないのはなぜか?
この疑問に対する端的な答えは、努力の仕方が間違っているから、です。
どんなに時間をたくさんかけて努力したとしても、その努力が的外れな努力だったら意味がないです。
前回、効率の良いトレーニングをするためには、専門家の指導を受けた方が良いと書きました。
専門家という人たちは、課題の解決のためのより効率が良いトレーニングを知っているものだからです。
たとえば、ピアノやギターなどの楽器の練習をすることを考えてみましょう。
鍵盤を叩いたり、弦を弾いたりすれば、だれでも音を出すことはできます。
しかし、きちんとした演奏ができるようになろうと思ったら、やみくもにピアノやギターを弾いてみてもダメでしょう。
どんなことにも、まずは基本として身につけるべき型があります。
最初はその型の習得を目指して反復練習をすることが重要になってきます。
もちろん、よくわからないなりにいろいろとやっているうちに、なんとなくできるようになったということもあります。
しかし、その場合はかなりのセンスが求められそうですし、何より時間がかかりそうです。
基本として習得すべきことは何か、まずは何から練習していけばいいのかを指示してくれるのが先生です。
意味もわからず丸暗記
トレーニングを行うときに、自分のやっているトレーニングの意味をきちんと理解して行うことが大切です。
何を身につけるためのトレーニングなのか?
これを身につけるとどんな良いことがあるのか?
トレーニングの際に、特に意識するべきことはなにか?
こういったことを頭に置いてトレーニングするのと、そうでないのとではトレーニングの質が大きく変わります。
特に算数で、やってもやっても伸びないという場合は、意味もわからず反復だけしているということが多いです。
その結果として、意味や理屈はよくわからないけれど、とりあえず問題は解けるという状態が生まれます。
「意味も分からず丸暗記」の状態です。
この状態になってしまうと、単純な問題は解けたとしても、少しひねられると対応できなくなってしまいます。
問題が難しくなればなるほど、本質的な理解、つまりきちんと意味や理屈がわかっているかが試されます。
この手のタイプの問題は、ポイントがつかめている人にはそこまで難しい問題ではなかったりします。
一方で、ポイントがつかめていない人にとっては、何を問われているのかが、チンプンカンプンだったりします。
つまり、正しく理解できている人とできていない人で、大きく得点差がついてしまうということです。
こういう問題に触れたとき、専門家は「これは良い問題だな」と感じます。
そして、良いトレーニングというのは、こういった良問を通して本質的な理解を深めることです。
しかし、そのような良いトレーニングが小学生に自力でできるかというと、それはもちろん難しいです。
そもそも、自分自身のやっていることの意味がわからないという方が当たり前です。
もちろん、最初からすべての意味や理屈を理解してトレーニングに取り組めるかというとそれは難しいです。
習うより慣れろで、やっているうちにだんだんと意味がわかってくるということも多いです。
しかし、その場合でも、わからないなりに自分のやっていることの意味は言葉として頭に入れておきたいです。
それがあるからこそ、トレーニングしているうちに「あー、先生が言っていたのはこういうことか」となるのです。
頭の中に種をまいておいて、いずれそれが芽を出すことを待つイメージです。
優れた先生というのは、こういった種まきがうまいです。
種もまいていないのに、いくら水や肥料をあげたところで、芽は出ません。
やってもやっても伸びないという場合は、こういった状態に陥っていないか、チェックしてみてください。
正しいトレーニングのためのチェックポイント
できれば、経験豊富な専門家にお子さんの状態をチェックしてもらうのが一番早いです。
実際に私が授業をする際に、意識してチェックしているポイントです。
①取り組んでいるトレーニングの意味や理屈を言葉で説明できるか?
②取り組んでいるトレーニングはいまの実力や改善点に適したトレーニングか?
③取り組んでいるトレーニングの量やかける時間は適切か?
④取り組んでいるトレーニングが応用的な場合は基礎となることの理解は十分か?
この4つは、裏を返せば指導する際に意識すべきポイントにもなります。
つまり、
①トレーニングの意味や理屈を言葉で説明できるようにさせる
②自分の実力や改善点に適したトレーニングをさせる
③取り組んでいるトレーニングの量が多すぎれば減らし、少なすぎれば増やす
④応用的なトレーニングに取り組む前に、基礎となることの理解を確認し徹底させる
こういったことすべてをご家庭でチェックするのは難しいかもしれません。
例えば、①にしても、そもそもトレーニングの意味や理屈ってなに?と感じられると思います。
その場合は、経験豊富な専門家にチェックをお願いしてください。
チェックをせずにやみくもに問題を解かせても、意味のないトレーニングになってしまう可能性が高いです。