「日日是学日!」(⇒ 日々、これ学び!)」
受験Dr.の松西です。新春とは申しますが、生活実感としては中学入試のラストスパート。
受験生のみなさん、風邪に負けることなく力を出し切ってくださいね。
今回は漢字・語彙の学び。対象は、間もなく新しい学年を迎える4、5年生です。
言葉や漢字に隠された法則を読み解き、しかも中学入試に役立てようというのが
本記事:ブレイク・コードのテーマです。第3回目は「りっしんべん」をあつかいます。
途中までは小6生にも有益な情報を交えるので、ぜひ読んでください。
「りっしんべん」はこんな形の字のことですよ。
では、シリーズ恒例の『早速ですが問題』!
入試問題:東京都市大付属2024年の、例題部分をすこし変更したものです。
【問題】次の図には上下左右と組み合わせて漢字を作ることができる共通の部首が入ります。
その部首を答えなさい。
(元の問題は「その部首の説明にあたる文をあとの選択肢から選ぶ」というもの)
もう、ブログタイトルで答えを言ってるようなものなのですが、正解は「こころ」で、
漢字はそれぞれ「志・想・情・性」となります。こういうパズルのような問題、
私は大好物です。続きも解きたい方はぜひ過去問にあたってみてくださいね。
りっしんべんは、もとが「こころ」で、それが立ち上がった形をしています。
元の漢字からの変形アニメーションをみるとはっきりわかりますね。
最近はあまり入試で見かけなくなりましたが、書き順が問われやすい字でもあります。
りっしんべんは、上のアニメでいうと「緑→青→赤」の順で書きます。
さて、お忙しい時期の小6生には耳寄り情報。りっしんべんを含む字の中に、私の選ぶ
「入試に出やすい漢字」のひとつが含まれています。
それは『快』
出題事例をざっとリストアップしてみましょう。
どうでしょう? 全部書けそうですか? 『快』には「こころよい」という気持ちのよさが
含まれており、心に関係するため「りっしんべん」が用いられています。
東大寺の「カイキ」、鷗友の「メイロウカイカツ」あたりがやや難しいでしょうか。いずれも
小学生までで習う字で構成された熟語ですので、正解したいですね。
元の意味がつかめていれば、セットで使われる字もあわせて覚えられると私は考えます。
(答え:快挙、快気、快適、快活、痛快、不快、明朗快活)
他には「(病状が)快方に向かう」「快音をひびかせ、打球は舞い上がる」などや、
訓読みの「こころよ(い)」なども狙い目。
ちなみに「会心の出来栄え」に『快』を用いると×。この字は「自分の心に会う≒納得いく」
というとらえ方をしましょう。
この時期の現・小6生にも有益な情報は以上です。ひきつづき、勉強がんばりましょう。
さて、ここからはもう少し深掘りしていきます。
まずは「りっしんべん」の学年別配当表です。
意外と少なくて、たったの4つ。りっしんべんを含む漢字、そんなに数はないのかな?
と思いきや、中学以降…
めちゃくちゃたくさんあります。
そしてやっかいなことに、中学入試国語の文章中によく使われている文字が目立つんですね。
ひとつふたつ例を挙げますと、「慢」。この漢字にはりっしんべんが使われているので
心に関係するとわかります。でも皆さんは漢字の意味を正確にとらえられているでしょうか?
東京農大一2023年では、選択肢の文中に次のように登場していました。
イ 科学研究という仕事内容を市民に紹介するものの、「理解できないだろう」という
慢心から、研究内容を明かしてこなかったということ。
選択肢文中にひょっこりと(ふりがな無しで)登場するため、「これくらいは読めるし、
意味が分かるだろう」という学校側のメッセージと受けとめざるを得ません
(もっとも同校は、素材文の選択からして難しめの文章が出るので、
「慢心…(おごり高ぶること。自慢していい気になること)」くらいでつまっているようでは
苦戦するかもしれません)。
中学入試は文章内の言葉には事細かに注釈をつけてくれますが、よく注意してみると
設問中の選択肢では意外と「大人の言葉」に言い換えていることがありますよ。
もう一つ例を挙げましょう。「懐」。
2024年に東大合格者数100人達成で話題になった聖光学院。
同校の2019年の出題より抜粋します。またもや選択肢文中です。
ウ 年齢(ねんれい)を重ねたことによる懐古趣味(かいこしゅみ)へと自身を埋没(まいぼつ)させてしまうのではなく、時にはリスクを伴(ともな)うような生活を心がけて自分の可能性を広げていく。
こちらはフリガナを振ってくれています。さて…「懐古主義」。これもスッと意味が出るか
どうかですね。小学生を指導するときの難しさのひとつです。「大人であれば当然、
知っているような単語」が、じつはうろ覚えだったりして、学年が進むにつれてノリで読み
とばしていた基礎語彙力が未熟なままであることが、成績停滞の原因にもなります。
いま小学5年生のお子様であれば、6年になってすぐのトップレベル中学の模試を受けたら、
レベルの高さに目を回すかもしれません。「小学校で習った漢字」では、とうてい太刀打ち
できません。中学生用の辞書をたずさえて意味をひく習慣が欲しいところ。
加えて、「漢字のコードを知る」ことで、知識吸収を正しくスムーズに行うことが大切。
たとえば、今回の漢字であれば(ほんの一部ですが)、次のように整理できます。
縦の行が「こころ」でそろい(左端だけですが)、横の行が「発音」でそろっています。
塾のテストでお子様の漢字解答を見た時、「え? なんでここをさんずいで書かないの?」と
がっかりしたことはありませんか? 多くのお子様は「視覚情報で」漢字を覚えています。
ですので「形が似ているから」という理由だけで、「専問」などとミスをやらかします。
「門」と「問」の意味上のちがいを考えれば、二度と間違えないですよ。
さて「懐」ですが、訓読みは「ふところ、なつか(しい)」など。りっしんべんの他に
「ころも」が入っていることからも語源が見えてきますが、「包み込むような心」を表します。
「懐古」は「昔に対して思いなつかしむ気持ち」ですね。これが「懐疑」なら、疑いの心を
持つことになります。あと「懐中」「懐紙」などの言葉もありますが、これは「ふところ」、
つまり古代中国の衣服の胸あたり。ここからものを取り出すシーンが想像できれば
イメージしやすいですね。ようは現代の「ポータブル=携帯」と同じような意味です。
これが、隣りに「土」がつくと「壊」になる。音読みはもちろん同じで「カイ・(エ)」、
訓読みは「こわ(す)」です。「破壊」という語のイメージからも「土に関係しそうだな」と
いうのはうなずけると思います。
ちなみに「懐古」は聖光学院の2023年でも本文中に登場しており、その時は注釈がついて
いました。やはり選択肢には注釈をつけにくいのでしょう。選択肢中の「大人言葉」、
意外と盲点だと思います。「本文中の言いかえ」が使われる選択肢では、どうしてもある程度
抽象的な単語を選んで文が作られます。そこでお子様が語彙力的についていけるかどうか。
頭の中で「カイコ、カイコ」と唱え10回書きするような学習法だと、長くとも3か月後には
きれいに忘れていると思いますし、意味を問われてもとまどうと思います。
漢字学習は、「漢字の中の漢字に気づくこと」 これが大切。
では、まとめです。
前回もお伝えしましたが、「高度な文章を読む必要に迫られる中学受験生」にこそ、
漢字の仕組みにある程度はなじんでほしいです。かなりの時間を割いて塾で扱うわけですし、
中学進学後も「新しい言葉」のひとつひとつが「新しい漢字」との出会いです。
そのときに隠されたコードを知っていれば「あれ? よく見たら見たことのある字の
組み合わせだね」と気づくことが増えるはず。
コードといってもシンプルで、「小学校で学んだ部首」をきっちり意味まで覚えよう、
ということです。小学5年生はこれに加えて「辞書を引く」習慣も付けてほしいですね。
音符のコードを知っていれば、初見の漢字でもあてずっぽうで音読みは分かりますし、
辞書を引く助けになります。音符からは読み、部首からは意味を借りて推測しつつ
辞書で調べる。こういうことを繰り返すと「頭の中に辞書ができる」感覚を味わえると
思います。整理しながら情報を出し入れすれば、頭の中も整理されますよ。
国語は4年、5年、必要語彙力がぐんぐん上がっていきます。その語彙力のもとは、意外と
日々(もしかしてイヤイヤ?)やっている漢字練習なのかもしれません。
発想をチェンジし、勉強を楽しい「暗号解読」に変えて…
「日日是学日!」(⇒ 日々、これ学び!)」