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投稿日:2025年01月23日

テーマ: 国語

中学入試によく出た「名著の名所ツアー【給食アンサンブル】」

「日日是学日!」(⇒ 日々、これ学び!)」

受験Dr.の松西です。夢に向かってスパートをかける全ての小6に「がんばれ」を伝えたい。
そしてその背中を見つめる他学年生も、新たな年度を迎える日が近づいていますね。今回はとくに
新小6のみなさんに読んでほしい内容です。中受国語のお悩みポイントは「物語文の奥深さ」。
難関校では記述で心情を問うことが多いため、読書習慣は欠かせません。
今回の「名著で名所」は、前回に引き続き物語文を扱います。
かるく復習しますが、よければ前回のブログをご覧ください。

次にあげる表は、私が「学校群像劇」というくくり方で表現するジャンルの一覧。
中学入試頻出のタイトルがずらりと並んでいます。

「学校群像劇」というくくり方で表現するジャンルの一覧

「透明なルール」と「いつか、あの博物館で」を加えました。いずれも10代の揺れ動く心を
描いた素晴らしい作品。中学入試素材文としても、きっと人気が出ることでしょう。
このタイプの物語にはぜひ慣れ親しんでおきましょう。

「学校群像劇」とくくって表現した理由は、これらの作品に共通する「ある特徴」からです。

特徴の図

物語中で描かれる「出来事」を登場人物が共有し、それが次の章、
そのまた次の章でも継承される。
もしくは「A君から見た『出来事』をBさんの視点から描く」ということを章ごとにやる形式。
その中心となる舞台が「学校」である点がポイントです。

学校というなじみの舞台で多様な主人公が描かれるため、
中学入試素材文に人気の学校群像劇。
多彩な主人公たちの中でも「入試に選ばれる主人公」には一定の傾向があります。
それは「主体的な生き方がうまくできず、悩んでいる」ということ。

悩んでいるイメージ

小、中学生であれば「誰かと比べて劣等感を持つ」「子供っぽい自分がいやになる」
「背が低いことがコンプレックス」「異性を気にしてしまう」「仲良しグループに遠慮し、
流される自分がキライ」など。高校生になれば「進路」「将来」などが加わります。
「この学校はなぜ入試にこのページを選んだのだろう?」とふり返った時、
例外はあるものの、上記の特徴に集約されるのではないか、と私は考えます。

さて、ここからが本題。新小6生よ、この本で物語文の読解基礎トレーニングをしよう!

給食アンサンブルの説明

中学受験に詳しいお父様・お母様なら、聞きおぼえがあるかもしれません。
「給食アンサンブル・シリーズ」です。塾の模試・テキストでも、よく採用されています。
全6章で、物語の章立ては次のような流れです。

物語の章立ての説明

同じクラスの6人が主人公。今回ご紹介する学校では、1・2・5章が出題されました。
そんな「彼ら・彼女らの抱える悩み」をご覧ください。

悩みの説明

ここで言葉の定義ですが、この記事では以下のように定めます。
「キャラクター…その場の他の人からどう見られているか。外面的な自己に関わる」
「悩み…その人物が内に抱える悩み。コンプレックス。内面的な自己に関わる」
給食アンサンブルでは登場人物の抱える『事情』もあいまって、人物描写が外面・内面の
二層形式で多面的に描かれています。(幼い高梨 桃や、人とあまり関わらない清野をのぞき)
「人から見たキャラクター」と「内面の自己評価」が一致しない。
なぜそう断言できるかというと(主人公たちが悩み多き思春期、というのもありますが)、
作品構成が次のようになっているからです。

作品構成の説明

第1章をのぞき「次の章の主人公がサブ主人公として、密接に絡んでくる」という構成。
例えば「高梨 桃編にはツンケンした不愛想男子キャラ」として登場する道橋 満が、
道橋 満編では「年上の女子に恋し、共通の趣味を持つため読書を再開した」という
内面事情が語られ「だから本好きの高梨さんと図書館で出くわしたのか」と合点できる。
道橋 満の外面的なキャラは高梨 桃を通じて描写され、道橋 満の内面は次章で語られる。
この形式を繰り返しつつ、「それぞれの人物エピソードに合った給食メニュー」を
タイトルに冠して、人と人とが織りなす合奏曲を描くのが「給食アンサンブル」です。
しかも上図の通り、物語は「最初の(笹川)美貴編」へと戻ってゆく。飯島 梢編を読後に
第1章をもう一度読めば、そこには飯島 梢の内面を知る「読者の目」が宿っていますから
物語がより深く読めますし、むしろ読まずにはいられないです。

もう少し、1・2・5章の説明を追加します。
1章…(笹川)美貴はお嬢様校として有名な私立小学校から、事情があり公立中学へ入学。
そこで仲良くなった飯島さんたちとは楽しく過ごすものの
「今のこの生活を現実として受け入れられない本当の私」に苦しむ。
2章…高梨 桃は読書好きで今でも児童書の続きを楽しみにしているが、「中学生になってから、
周りがどんどん大人びていくこと」に戸惑う。「もっと大人っぽくなった方がいいのかな」。
その視線は、誰からも大人びて見える同じグループの美貴に向かう。憧れをもって。
5章…清野は成績優秀。クラスで一目置かれているが本当は「周りとの距離感がうまく
とれず、さびしさを募らせて」いる。そんなある日、百人一首大会で同じチームになった、
クラスで一・二を争うにぎやかな生徒・飯島さんから意外なお願いを受ける。

三人ともが「本当は、なりたい自分があるのに現実にはうまくいっていない」と思い悩みます。
他の章に触れると、3章は「恋心」が中心で、中学入試には使いづらそう。
そして6章も最終章だけあって『それまで読み進めてきた読者でないと、すこし
分かりにくい描写』が増えてきますので、問題には使いづらいかもしれませんね。
たとえば一章では美貴の目を通して「飯島さんは面倒見がいい、足立くんはお調子者、
高梨さんは内気でちょっと変わった子」などがていねいに描写されますが、
6章ではそういう説明的表現は少なくなり、読者にも「周知のもの」として話が進みます。
問題として扱うときに注釈がたくさん必要になる場合があり、扱いづらいです。
私は5~6章の流れが一番好きですが、受験国語的には1・2章を味わってほしいです。

そろそろまとめます。
私は作家を紹介するとき、敬称として「さん」を用いていますが、先の表に挙げた
「学校群像劇」ものを書かれている作家たちには、本当に畏敬の念を感じます。
構成力がどれも素晴らしいからです。
そして残念ながら、中学入試では「複数の視点からの、多面的な人物描写」を味わう機会は
そう無いでしょう。字数や時間の制約に加え、「問題が難しくなりすぎる」からです。
それは塾テキストも同じで、どうしても「入試によく出た一場面」が採用されがちです。
ですが、それでは「学校群像劇」の真価は伝わりません。
次の図をご覧ください。

まとめの図

緑色の部分は「主人公の視点・心情」です。読者のために著者が用意した「自然な視点」です。
難しい問題を作る場合はセピア色、主人公を通して描かれる他者の心情を問う手法があります。
他者の心情は「言動、反応、セリフや人間関係など」から客観的に推察する必要があります。

読書習慣を増やせば「この人はこういう性格だからこんな反応をするんだな」という人物像の型が増えていきます。新小6生には「他者から見た視点」を問う記述への対応力を養うためにも主人公が次々にバトンタッチしていく学校群像劇物で「それぞれの視点」を味わってほしいです。
きっと物語読解のレベルがあがり、受験や模試対策になりますよ。
とくに内容的に優れ、幅広い偏差値帯の学校に選ばれた本作「給食アンサンブル」を通じて、
まずは新学年の読書体験の第一歩を踏み出してください。

「日日是学日!」(⇒ 日々、これ学び!)」

 

 

「名著の名所」ツアー・旅の”しおり”

国語ドクター