皆さんこんにちは。
受験ドクターの理科大好き講師、澤田重治です。
いよいよ年の瀬ですね。
月日の流れるのは速いものです。
さて、2017年最後のブログは、久しぶりとなってしまった「最新入試傾向シリーズ」の第2弾です。
近年の理科の中学入試問題を見ていると、本で学んだだけの知識ではなく、
身の回りの科学にまで落とし込めているかをみる問題が流行しています。
このシリーズでは、そんな最新入試傾向を、簡単に解説しながら紹介していきます。
まずは、次の問題をご覧ください。
2017年度 雙葉中 大問2
次の文章を読み,問いに答えなさい。
マメ科の植物であるダイズを畑からぬいてみると,根に図1(※省略します)のような粒状のものが見られます。これは,根粒菌という微生物がつくり出した根粒というものです。根粒菌は,空気中に最も多く含まれる( b )をもとにつくった物質を植物に与えます。一方,ダイズは空気中の( c )と水をもとに光合成を行い,その結果つくられた物質を根粒菌に与えます。根粒は,ダイズのようなマメ科の植物の根に見られます。
問1 文中の( a )~( c )に適する言葉を答えなさい。
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雙葉中学の通学圏内に住む方で、ダイズ畑が近くにあるという人は、そんなに多くないでしょう。
また、家庭菜園などをやっている方であっても、ダイズを作っている人が多いとは思えません。
では、これは無茶な知識を要求している問題なのでしょうか?
いえいえ、決してそんなことはありません。
よく見ると、ここまでの問題は、ダイズを育てたことがなくても簡単に解けるはずなのです。
まず、( a )は、植物のからだの水が不足した時に、気孔を閉じることで防ぐものですから、
当然、『蒸散(作用)』ということになるでしょう。
これは、植物全般にあてはまることで、ダイズだけの話ではありませんね。
( b )も、「空気中に最も多く含まれる( b )」というように前置きがありますから、
簡単に『窒素』であることが分かると思います。
これも、ダイズには直接関係のないことです。
( c )は、「ダイズは」という文章で始まりますから、一瞬、
「おっ、いよいよダイズ特有の話が出てくるのか!」と思うのですが……あれ?!
「ダイズは空気中の( c )と水をもとに光合成を行い」って、
光合成の原料として水以外に使われるものですから、二酸化炭素に決まっていますよね。
結局、ダイズには何の関係もありませんでした。
ここまでは……。
不思議に思いつつ先に進むと、問2ではアブラナ科の「シロイヌナズナ」という植物を例に、
「がく」「花びら」「おしべ」「めしべ」を作る遺伝子の話が展開されます。
あれ? ダイズは??
しかも、問2の中には(1)から(3)まで3つの小問があり、それぞれ難しい問題です。
字数制限のない記述問題まで含まれています。
問2が終わるころには、受験生の頭から、ダイズの話はすっかり離れてしまったことでしょう。
しかし!
次の問3で、再びマメ科の植物の話に戻ってくるのです!
2017年度 雙葉中 大問2 問3
最近はほとんど見られなくなりましたが,かつては春先の田んぼにレンゲソウ(ゲンゲ)とよばれるマメ科の植物の花が咲いていることがありました。これは,農家が前年に種をまいたものです。農家は田植えの前にレンゲソウを機械で土の中に混ぜこみます。この理由を答えなさい。
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知るかーい! と思わず叫びたくなるような問題ですが、ちょっと待ってください。
通常の参考書に載っていないような農家の話が、何のヒントもなしに出てくるはずがないのですから。
ここで、「マメ科」という一言から、先ほどの文章を連想できたかどうかが勝負の分かれ目です。
なぜ問1では、一般的な植物の知識を問うだけの問題で、わざわざ「ダイズ」という具体名を出し、
直接関連しない「根粒菌」の説明をしたのか……。
もうお分かりですね。
マメ科の植物と「持ちつ持たれつ」の関係を築いている根粒菌には、植物の3大肥料の一つである
窒素分を豊富に含んだ肥料をつくる力があるのです。
農家の方々は、レンゲソウの根につく「根粒」を、肥料として使用したかったのですね。
これなら納得。
つまり、問1は伏線だったということなのでしょう。
せっかくですから、最近の入試傾向に対応するために、もう少し知識を深めておきましょう。
ダイズが「畑の牛肉」とよばれるのは、たんぱく質を多く含んでいるからです。
しかし、ダイズであっても、光合成で作れるのは糖やでんぷんだけで、たんぱく質は作れません。
たんぱく質は、でんぷん(ブドウ糖)と肥料分を原料に、植物の体内で合成しています。
そして、たんぱく質の合成には、肥料としての窒素が欠かせないのです。
ダイズなどマメ科の植物の種子にたんぱく質が多量に含まれるのは、
マメ科の根にだけつく「根粒菌」のはたらきのおかげだったということです。
また、それらのたんぱく質を生物が体内で分解すると、窒素分を含んだ「アンモニア」が発生します。
人体内で発生したアンモニアが、肝臓で人体にとって無害な「尿素」に作り替えられるということも、
これに関連させて覚えておきましょう。
なお、マメ科の植物と根粒菌のように、お互いが必要とする物質を提供しあうことで、
複数の生物が協力し合って生きることを「共生(きょうせい)」と言います。
とあるアニメで有名になった「クマノミ」と「サンゴ」の関係や、「アリ」と「アブラムシ」の関係など、
身近にもたくさんの例があります。
調べてみると面白いかもしれませんよ。
このように、小学生にも理解できる「身近な科学」の話題は、これからも様々な中学校の入試問題で狙われ続けることでしょう。
また、まったく同じ話が出題されなくても、目の付け所や考え方は、きっと役に立つと思います。
ぜひ参考になさってください。