皆さんこんにちは。
受験ドクターの理科大好き講師、澤田重治です。
仕事柄、様々な学校の入試問題を見る機会は多いのですが、
時々、問題の設定が事実と反するために、
問題不成立ではないかと思われるものに出会うことがあります。
最近も、立て続けに同じような不成立問題(?)に出会いました。
その内容は、どちらも「お酢と金属の反応」です。
お酢と言えば、私たちにとって大変身近な物質ですよね。
お寿司や酢の物、もずく酢など、おいしい食べ物もいっぱいあります。
ということで、今回のブログはこの「お酢と金属の反応」をテーマに書いてみます。
お酢の性質
お酢の主成分は「酢酸(さくさん)」という物質ですが、
実際の酢酸の濃度は4%程度しかないそうです。
それでもあのすっぱさと強烈な臭い! 酢酸ってすごいですね。
たしかに、酸性の水溶液のごく一般的な性質として、授業でも
「酸は金属と反応して水素を発生する」と教えます。
でも、金や銅などのように、酸とまったく反応しない金属もあります。
また、アルミニウムのような反応しやすい金属とも反応しない酸性水溶液も存在します。
そう、常に例外はつきものなのです。
私の持っている知識では、「お酢」も金属と反応しにくい酸性水溶液の一つで、
アルミニウムやスチールウール(鉄)とは反応しないはずなのですが……
何と入試問題の中に、お酢と反応することが前提となっている問題があったのです。
まずは、私が疑問を持った問題を2つ、学校名を伏せた上で以下に紹介します。
【例1】 九州にある有名進学校 “L” の入試問題
9種類の水溶液A~Iがあります。これらはそれぞれ次のア~ケのいずれかです。
ア.アンモニア水 イ.塩酸 ウ.さとう水 エ.食塩水 オ.す
カ.炭酸水 キ.石灰水 ク.水酸化ナトリウム水溶液
また、水溶液の酸性,中性,アルカリ性によって色が変化する溶液Xを用意しました。
これらについていくつかの実験を行うと,次のような結果が観察されました。
〔実験1〕 それぞれの水溶液に溶液Xを1滴ずつ加えると,A,B,Cは緑色,
D,E,Fは黄色,G,H,Iは青色になった。
〔実験2〕 それぞれの水溶液を蒸発皿に少量とって熱したところ,D,E,F,Gは
蒸発皿に何も残らなかった。A,Cはこげてしまった。
B,H,Iはどれも白い粉が残った。
〔実験3〕 それぞれの水溶液を試験管に入れ温めると,E,F,Gにはそれぞれ特有な
においがあった。
〔実験4〕 それぞれの水溶液にスチールウールを入れると,E,Fではさかんにあわが出た。
〔実験5〕 それぞれの水溶液にアルミニウムはくを入れると,F,Hではさかんにあわが出た。
〔実験6〕 それぞれの水溶液にガラス管を用いて息をふきこむと,Iは白くにごった。
〔実験7〕 それぞれの水溶液にヨウ素液を加えると,Aだけが青くなった。
(1) ある溶液Xは何ですか。
(2) A,D,G,Hは何ですか。ア~ケの記号を用いて答えなさい。
【例2】 九州にある有名進学校 “S” の入試問題
5種類の水よう液A,B,C,D,Eがあります。
これらの水よう液は塩酸,水酸化ナトリウム水溶液,アンモニア水,炭酸水,食塩水,
砂糖水,す,石灰水のどれかであることがわかっています。
どれがどの水よう液であるかを調べるために,次のような実験をしました。
後の問いに答えなさい。
〔実験1〕 水よう液A~Eの色を観察すると,Eは色がついていたが他は無色であった。
〔実験2〕 水よう液A~Eのにおいをかぐと,C,Eは特有のにおいがあり,
他はにおいがなかった。
〔実験3〕 水よう液A~Eを青色リトマス試験紙につけると,Eでは赤色に変わり,
他は変化しなかった。
〔実験4〕 水よう液A~Eを試験管に取ってアルミニウムを入れると,
Aでは激しく気体を発生しながらとけ,Eではゆっくりと気体を発生しながらとけた。
他は何もおこらなかった。
〔実験5〕 水よう液A~Eを蒸発皿に入れて加熱すると,AとBでは白い固体が残り,
Dでは黒いこげができた。
〔実験6〕 水よう液A~Eを試験管に取って息をガラス管で吹き込んだが,
どれも変化しなかった。
問1 実験3のように,青色リトマス紙を赤色に変える水よう液の性質を何といいますか。
問2 実験4でAから発生した気体は何ですか。
問3 水よう液A~Eの名前を答えなさい。
問4 BTBよう液を入れたときに青色に変化するものはどれですか。
A~Eからすべて選んで記号で答えなさい。1つもない場合は「なし」と答えなさい。
問5 水よう液A~Eを試験管に取ってスチールウール(鉄)を入れたとき,
気体が発生するのはどれですか。A~Eからすべて選んで記号で答えなさい。
1つもない場合は「なし」と答えなさい。
実際に解いてみると分かりますが、【例1】の問題では水溶液Eがお酢のはずです。
しかし、〔実験4〕によると、スチールウールと反応してさかんにあわが出るらしい……。
そして、【例2】では、Eがお酢のはずですが、〔実験4〕ではアルミニウムと反応して
ゆっくりと気体を発生しながらとける……えっ、本当に?
卵の殻などの主成分である「炭酸カルシウム」となら反応しますが、
金属とは反応しないのでは?
ということで実験です!
「百聞は一見にしかず」と言いますからね。
ちなみに、どちらも“E”がお酢に割り当てられていて、
そのお酢が金属と反応する実験は〔実験4〕でしたが、もちろんこれは偶然です。
実際に試してみました!
さて、お酢にもいろいろ種類があって迷ったのですが、
お酢の主成分である「酢酸」以外の影響をさけたいので、
果実酢などではなく、オーソドックスなこちらのお酢で実験を行いました。
まずは、【例1】に登場したスチールウール(鉄)との反応です。
……いや、静かなものです。
待てど暮らせど、なーんにも起こりません。
「さかんにあわが出た」ってなっていますが、その気配すらありませんね。
もちろん、表面で多少の変化が起こっている可能性はあるのでしょうが、
少なくとも気体の発生はまったく見られませんでした。
また、色や質感の変化なども認められませんでした。
さて、次は【例2】に登場したアルミニウムはくとの反応です。
ほらね。
やっぱりこっちも、何も反応しない。
そうでしょうね。ええ。そうだと思っていました。
スチールウールと同様に、気体の発生はまったく見られません。
また、色や質感の変化も認められませんでした。
そしてこれが、10分後……
念のため10分間、じーっと見つめていましたが、結局何も起こりませんでした。
色や質感の違いも認められません。
それにしても……何も変化が起こらない実験って、本当につまらないですね。
でも、つまらないというだけで、意味がないわけではないんですよ。
疑問を感じたら仮説を立て、実際に調べてみる――これこそが科学です。
「何も起こらない」ということを確認するのも、大切な科学なのです。
特に開成や桜蔭、駒東などの上位進学校では、
「科学者としての視点」を重視する問題がよく出されます。
皆さんも、この姿勢はぜひ大切にしてくださいね。
今回は超大作になってしまいましたが、
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回も、楽しくてためになる「身近な科学」を紹介していきます。
どうぞお楽しみに!