皆さんこんにちは。
受験Dr.の理科大好き講師、澤田重治です。
単元が分かりやすいようにタイトルのつけ方を少し変えましたが、内容は今まで通りです。
身近なところにある楽しい理科の話を紹介していきますのでどうぞお楽しみに!
さて、いよいよ12月に入りました。
短い秋があっという間に終わり、寒さもだんだん本格的になってきます。
「寒い」イコール「入試が近い」という感覚が体に染みつくらしく、
寒い日には何となくソワソワしてきます。
一種の職業病みたいなものですね。そんな寒さから私たちを守ってくれる心強い味方――
その一つが「使い捨てカイロ」でしょう。
使い捨てカイロが発熱する仕組み
使い捨てカイロが発熱する仕組みは意外に単純で、
一言でいえば「鉄がさびるときの化学変化」です。
外袋を開けることで、空気に触れるようになって発熱反応が始まります。
つまり、開封前のカイロの袋の中には酸素は含めれていないわけですね。
単純だからこそ、中学受験でもよく題材にされているのでしょう。
でも、鉄がさびるときに熱を出すと言われても、正直ピンとこないですよね?
まずはそこから解決していきます!
様々な物質が酸素と結びつく化学変化のことを「酸化反応」といいます。
鉄などの金属がさびるのもこの酸化反応の一種で、
化学変化としては「燃焼」と同じ仲間になります。
そう考えれば、熱が出ること自体は当然なのかもしれません。
でも……鉄ってそんなすぐにはさびませんよね?
そうなんです。
普通にさびるのを待っていても温かさを実感できるほどは発熱しないので、
短時間でさびさせる工夫が必要になってくるのです。
それでは、使い捨てカイロに仕掛けられた様々な工夫を見ていきましょう!
使い捨てカイロの工夫
私が持っていた使い捨てカイロの裏面を見てみると、
原材料名のところには次のように書いてありました。
『原材料名 鉄粉、水、バーミキュライト、活性炭、塩類、高吸水性樹脂』
もちろん、それぞれに意味と役割がありますので順に説明していきます。
1.鉄粉
鉄の酸化反応で発熱する仕組みですから、原材料に鉄が入っているのは当然ですね。
ここで注目してほしいのは、「鉄粉」であって「鉄片」ではないということです。
つまり、細かくすることで表面積を大きくして、酸素と触れやすくしているのです。
2.水
中学入試でも、試験管に入れた鉄くぎがさびる様子を観察する問題で、
水が入っている方が乾燥している状態よりもさびるのが速いという実験があります。
実際、水に触れるものの方がさびやすいですよね。
そこで、防水性のある袋を使って中に水を入れているのです。
いくら水が鉄のさびを早めると言っても、完全に水中につかってしまうと、
鉄粉自体が空気に触れなくなるのでやはり酸化反応は起こりません。
そこで、観葉植物の土などに混ぜて使われることも多い、
バーミキュライトという保水材に水を含ませて鉄粉と混ぜているのです。
ちなみに、このバーミキュライトだけを単独で土の代わりに利用することで、
肥料分のない状態での植物の生育を観察する問題も出題されたことがありました。
この機会に覚えておきましょう。
4.活性炭
活性炭の表面にはたくさんの小さな孔(あな)が開いていて、
その孔に、通常の炭よりも多くの空気を吸着することができます。
そして、この空気を吸着した活性炭が混ざることで鉄粉表面の酸素濃度を上げ、
酸化反応(さび)のスピードを上げているのです。
ちなみに、活性炭は様々な物質を吸着する性質を利用して、
冷蔵庫用の脱臭剤などにもよく使われています。
海の近くでは、自転車や鉄棒などの鉄製品がさびやすくなります。
そのため、海の近くにドライブに行ったときなどは、
できるだけ早く自動車の洗車をした方が良いと言われています。
使い捨てカイロの中に塩類を入れているのもこれと同じ原理で、
やはり鉄粉がさびるスピードを上げることに役立っています。
ちなみに、乾燥した塩が触れただけでは鉄はさびません。
塩は電解質(水に溶けると電気が流れる物質)なので、
水に溶けた状態で鉄に触れることで表面にわずかに電気が流れ、
その電気のはたらきで早くさびています。
名前の通り、とても吸水力に優れた物質なので、バーミキュライト同様、
鉄粉を速くさびさせるための水を蓄える役割をしています。
高吸水性樹脂(吸水ポリマー)は、少量でたくさんの水を蓄えられるため、
身近なところでは他に「紙おむつ」などにも使われています。
また、水分を保てない砂漠の緑化に使われて話題になったこともあります。
いかがでしたか?
入試会場に持っていく人も多い「使い捨てカイロ」の袋の中には、
こんなにたくさんの科学がつまっていました!
中学入試問題でも頻出の題材ですので、しっかりと理解しておいてください。
次回もまた、楽しくて中学受験に効く、身近な理科の話をお届けします。
どうぞお楽しみに!