第216号 2014-04-02
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□ 国語読解方程式より 詩の読解方法Part1「物語詩」
・4、5年生の場合
・6年生の場合
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昨年より遅い桜の花が
春の風景を染めています。
あの黒っぽい幹や枝と、
今にも消えそうな淡い花色は、
「幽玄」だの「雅やか」だの
といった言葉の実体を
感じさせるには十分ですね。
川沿いの
道沿いの
桜並木を眺めながら、
日本人が愛でつづけてきた
花の深さに感じ入るこの季節。
「花は桜」と
詠んだ多くの和歌から、
時を経て生まれた俳句、
そして西洋の影響を受けた
新体詩まで、
韻文の歴史は
日本文学を彩ってきました。
今回から
3回に分けて、
韻文の中から
「詩」をとりあげて
「読解方法」についてお話しいたします。
国語読解方程式より 詩の読解方法Part1
「物語詩」
■■ 作問者泣かせの詩 ■■
詩。
入試の世界では
中学受験に限らず、
高校受験、
大学受験でも
決して出題率の高くない分野です。
なぜでしょうか。
答えはかんたんです。
詩はことばのつらなりの間が大きく、
一般の論理性を排除しているからです。
詩独自の論理性をたどり、
ひとつひとつのことばの重層性を分析し、
音やリズムもあわせて
全体を「ことばの彫刻」として
味わいつくすこと。
詩の鑑賞は
奥が深く、
設問に対する答えも
多様になる可能性が高い。
いわゆる
答えが一つである
入試問題にするには
作問者の手間のかかる
ジャンルなのです。
ですから
詩を出題する学校は、
非常に挑戦的な学校であるともいえます。
だからなのか、
偶然なのか、
詩を出題したことのある学校は、
実は超難関校に多いのです。
筑駒をはじめ、
桜蔭、灘、そして2014年度は開成まで
詩を出題しています。
では、
具体的に、
入試に出やすい詩をタイプ別に分け、
攻略法を書き出してみましょう。
今回は「物語詩」についてです。
■■ 詩のタイプ別攻略法 物語詩 ■■
物語詩は、
物語のように
時間の流れに沿って
出来事が起こり、
登場人物の心情が映し出されます。
たとえば、
高村光太郎の「レモン哀歌」。
妻智恵子の最期の瞬間を切り取った詩ですが、
物語風にも読めますね。
レモン哀歌 高村光太郎
そんなにもあなたはレモンを待っていた
かなしく白くあかるい死の床で
わたしの手からとった一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱっとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
あなたの咽喉に嵐はあるが
こういう命の瀬戸ぎわに
智恵子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた
それからひと時
昔山巓(さんてん=山頂)でしたような深呼吸を一つして
あなたの機関はそれなり止まった
写真の前に挿した桜の花かげに
すずしく光るレモンを今日も置かう
レモンの形、色、酸味、香り、峻烈なしぶきまでが、
死の直前に
「もとの智恵子」を引き出します。
だからこそ
「そんなにもあなた(智恵子)はレモンを待っていた」
のですね。
「もとの智恵子」になり、
最愛の夫に
「生涯の愛をかたむけ」るために。
死後、
その愛を偲び、
遺影の前に
「すずしく光るレモンを今日も置」くのは
智恵子が愛を傾けた相手、
視点人物です。
ここで必要な読解力は
状況の把握につきます。
そうです、
物語詩は、状況の把握を要求するのです。
「死の床」
「こういう命の瀬戸際に」
というところで、
智恵子という人が死に際であることが
わかります。
そして
「もとの智恵子になり」
というところで、
今までは「もとの智恵子」ではなかった
ということがわかります。
智恵子が死の間際に
「生涯の愛を傾け」た相手は
この詩の視点人物です。
そして、
「あなたの機関はそれなり止まった」
という時点で智恵子は死んだのですね。
ということは、
その後でてくる写真は、
当然遺影です。
ですから、
レモンを置く視点人物は、
単なる恋人ではなく、
身内、
すなわち夫であることがわかります。
たとえ、
高村光太郎のことを知識として知らずとも、
この詩のみでそこまで状況を読みとる必要があるのです。
「もとの智恵子」ではなかった智恵子が、
死の直前にレモンによって
「もとの智恵子」となり、
夫に「生涯の愛」を伝える。
レモンに彩られた
哀しいまでの
夫婦の愛の深さを読みとる必要が
あるでしょう。
さて、
かつて筑駒で出題された吉野弘の「夕焼け」という詩。
電車の一コマをつづった詩ですが、
後半の13行分は、
「電車を降りた」
「ぼく」の想像です。
そこをしっかり押さえられるか。
が読解のカギです。
また、
三度目に席を譲らなかった娘の
心情を
「ぼく」の視点から読みとれるのか。
読解のキモ部分ですね。
この詩はあくまでも
「ぼく」の心情風景なのですから、
後半13行分の「ぼく」の
娘の心情への解釈が、
娘の心情の手がかりとなります。
「「ぼく」は娘がやさしい気持ちの持ち主
と思っているようだが、
実際席を譲らなかったのだから、
あんまりやさしいとは思えない」
などという、
文脈を離れた解釈をするのは厳禁です。
物語詩は、
まずは
状況を把握すること。
次に、
視点人物(詩人)の選択した
「表現」から心情を推し量ること。
心情理解は
物語の読解とつながっています。
次回のメルマガでは
「象徴詩」についてお話しいたします。
「夕焼け」 吉野弘
いつものことだが
電車は満員だった。
そして
いつものことだが
若者と娘が腰をおろし
としよりが立っていた。
うつむいていた娘が立って
としよりに席をゆずった。
そそくさととしよりがすわった。
礼も言わずにとしよりは次の駅で降りた。
娘はすわった。
別のとしよりが娘の前に
横あいから押されてきた。
娘はうつむいた。
しかし
また立って
席を
そのとしよりにゆずった。
としよりは次の駅で礼を言って降りた。
娘はすわった。
二度あることは と言うとおり
別のとしよりが娘の前に
押し出された。
かわいそうに
娘はうつむいて
そして今度は席を立たなかった。
次の駅も
次の駅も
下唇をキュッとかんで
からだをこわばらせて——。
ぼくは電車を降りた。
固くなってうつむいて
娘はどこまで行ったろう。
やさしい心の持ち主は
いつでもどこでも
われにもあらず受難者となる。
なぜって
やさしい心の持ち主は
他人のつらさを自分のつらさのように
感じるから。
やさしい心に責められながら
娘はどこまでゆけるだろう。
下唇をかんで
つらい気持ちで
美しい夕焼けも見ないで。
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