メニュー

投稿日:2024年05月14日

テーマ: 理科

中学受験理科から学ぶ発酵③ 酵母以外の発酵―乳酸発酵と酢酸発酵

こんにちは、受験Dr.の咲山です。

発酵食品、微生物を用いた加工食品。

中学入試では頻出とまでは言わないものの、
知っているかどうかで、問題の解きやすさが大きく変わるテーマでもあります。

今回はこの発酵食品を詳しく知るため

  1. 発酵の中心―酵母のはたらき
  2. 酵母を用いた食品―お酒、みそ、しょうゆ
  3. 酵母以外の発酵—乳酸発酵と酢酸発酵の利用

3回に分けて、発酵の仕組みとその代表例を紹介したいと思います。

今回はその第3回、酵母以外の発酵を扱います。
第1回と第2回を読んでいない方は、それぞれクリックしてご覧になってください。


三大発酵

  1. 酵母のアルコール発酵
  2. 乳酸菌の乳酸発酵
  3. 酢酸菌の酢酸発酵

これら3つは、まとめて三大発酵と呼ばれています。
今回は酵母以外の発酵ということで、乳酸発酵と酢酸発酵を紹介します。

乳酸発酵の主役は乳酸菌です。
第1回の中で、酸素がない環境下での呼吸を嫌気呼吸と呼ぶことを紹介しました。
乳酸発酵はこの嫌気条件下で行われるもので、。糖を材料に、乳酸を作る過程でエネルギーを得ています。

対して、酢酸発酵の主役は酢酸菌。
酢酸を含む水溶液は皆さんもご存じ、食酢です。食酢には酢酸が約5%ふくまれています。
乳酸発酵、アルコール発酵とは異なり、酸素を用いた反応が行われています。

酢酸水溶液は中学受験で化学の水溶液の分類問題でもよく出題されますが、アルコール水溶液と合わせて、液体が溶けている水溶液として覚えておく必要がある水溶液ですね。

どちらもアルコールと比べると、実際に口にする機会も多くあるかと思います。
しかし、酢酸発酵はアルコール発酵の延長線上にあるものでもあります。それぞれ詳しく紹介していきます。

 

乳酸発酵

糖→乳酸

材料と最終生成物だけを文字であらわすと、たったのこれだけです。実際には中間での物質もありますが、詳しくは高校生以降の生物の範囲に入ってしまうので割愛します。
材料の糖(グルコース、ブドウ糖)に対して乳酸が1:2の割合で生成する反応です。

乳酸によって酸味を与えたり、食品に含まれるたんぱく質を変化させたりすることで、元の食品とは全く異なる味わいが得られるというものです。また、これは乳酸だけでなく、酵母のアルコールも同様ですが、代謝産物によって微生物の周りの環境を変えることで、他の微生物の発生を防ぐことが出来ます。その結果、食品の保存性も高まることも利点です。

主な製品はチーズやヨーグルトは有名な食品ですが、キムチなどの漬物にも乳酸発酵が用いられます。
漬物での乳酸発酵は、野菜の葉などにもともと付着している乳酸菌を用いているようです。

 

酢酸発酵

アルコール+酸素→酢酸

を、酢酸菌が行います。酢酸菌は酸素を使って、エネルギーを作りますが、二酸化炭素にまでは分解せずに酢酸で止めている、というのが特徴です。酢酸発酵はエネルギーを作ることが目的であることはもちろんですが、酢酸水溶液といえば酸性水溶液の代表例、酢酸を作ることで周りの環境を酸性に変えてしまい、酢酸菌以外が繁殖しないようにする工夫でもあるといえます。

純米酢、リンゴ酢といった違いは、原材料による違いです。
黒酢は玄米を原料としますが、良く見る黄色の食酢とは異なり、でんぷん以外の成分が多く含まれていることから、色が黒くなります。

また、酢酸発酵の式の中にアルコールがある通り、お酢の製造工程において、また酵母が登場します。
原料となる米を、麹を用いて糖化し、得られた糖を酵母によってアルコールへと変化させる、というのは前回のお酒の製造過程と全く同じです。

米酢に焦点を当ててお話しましたが、アルコールがあれば酢酸を作れるのは間違いないので、ワインを基に作られるお酢はワインビネガー、特にバルサミコ酢という名前を聞いたことがあるかもしれませんが、これはワインビネガーの一種です。他にもビールを基に作るお酢でモルト酢といったものもあります。

アルコール発酵と重なる部分もありましたので、原材料と完成品を簡単にまとめると以下のようになります。

原材料と完成品をまとめた図

最後に、前回詳しく触れられなかった麹を少し細かく説明したいと思います。

 

麹とは麹菌(コウジカビ)を穀物上に大量に繁殖させたものです。
酢酸発酵や清酒製造に用いられる、米にコウジカビを繁殖させたものは米麹、しょうゆやみその製造に用いられる、大豆に繁殖させたものは豆麹と呼ばれます。

塩麹という食品が以前流行しました。これは米麹を塩水で薄めたものです。
麹菌の持つたんぱく質分解酵素を用いてお肉を柔らかくするといった使われ方をしています。

また、最近ニュースで、「紅麹」が取り上げられる話題がありました。
あまり明るい話題ではありませんが、今回改めて麹を紹介することにしたきっかけでもあります。

~紅麹~

名前の通り、赤い色素を持つ種類の麹菌によってつくられています。
種類は違いますが、麹に色がついているものには、沖縄のお酒として有名な泡盛には「黒麹」というものが使われています。また、先程紹介した米麹も、見た目の色から「黄麹」とも呼ばれます。

食品の色付けは勿論のこと、塩こうじと同様にタンパク質を分解する作用もあるため、食肉加工などに使われてきました。勿論、他の麹と同様に、酒類醸造の場でも用いられています。

塩こうじとは違い、暗い話題での目立ち方となってしまいましたが、元来人に悪影響が出る微生物ではない(摂取のし過ぎはもちろん悪いです。悪い影響がない麹菌を選んで培養し続けてきている)
ということ、今回ニュースとなっている原因物質は本来全く紅麴とは関係のない物質であるということは、知っておきたい事実です。

食の安全性という点で重要なニュースですが、見えない微生物だからこそ、正しく知識を得ていきたいと考えさせられたニュースでもありました。


この3回を通して、アルコール発酵、乳酸発酵、酢酸発酵を紹介しましたが、発酵食品は一つの発酵だけでなく、それぞれの微生物の特徴やはたらきを上手く利用して、発酵を重ねて作っているものも少なくありません。どの食品も、人々の知恵と経験を活かして、長年にわたって磨き上げられてきた努力の結晶です。

今回紹介出来ていない食品も多くありますが、何気なくいつも食べているものも、見渡せば発酵食品はたくさんあります。是非材料や調理方法だけでなく、その食材の由来がどのようなものか、興味を持つきっかけになったらと思います。

以上です。

理科ドクター